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石造美術とは何か? 川勝政太郎先生の言葉より

川勝政太郎先生が眠る川勝家のお墓。
五輪塔の設計は、川勝先生自身がされています


『月刊石材』2021年10月号(石文社)に、大島石材工業株式会社(愛媛県今治市)の小田満弘社長による【墓屋の基礎知識(2)京都の美しい石造物(筆者推薦)】を地図入りで掲載しました(「墓づくりを究める」の寄稿文内)。

 全部で35ヵ所をご紹介いただきましたが、そのなかに日本石造美術研究のパイオニアである川勝政太郎先生のお墓がありました。小田社長の推薦であり、また川勝先生のお墓参りをしたかったので、昨年秋、京都へ行く機会に合わせて墓参を致しました。

 五輪塔の地輪に刻まれた銘文によると、五輪塔の造立は昭和19年で、その設計は川勝先生自体がされておりました。大きな五輪塔ではありませんが、とてもバランスのよい五輪塔です。さすが川勝先生の設計です。

 
 川勝先生は明治38(1905)年に京都で生まれ、昭和53(1978)年に亡くなられています。川勝先生が主幹として昭和5(1930)年に設立された「史迹美術同攷会」は現在も続いており、同時に発刊が開始された雑誌『史迹と美術』も発刊が続いています。端くれですが、私も史迹美術同攷会の会員です。


『史迹と美術』第1号(所蔵:石文化研究所)

 

 そこで「石造美術とは何か?」を、いま一度、確認したいと思います。

 下記は、昭和10年3月1日に発刊された川勝政太郎著『石造美術概説』(スズカケ出版部)の第2章「石造美術の意義及種目」の転載です。文章は旧仮名遣いであるため、ここでは現代かなづかいによる表記に改め、一部の漢字をかなに換えるなどしています。

 

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「石造美術」とは何ぞや。

 このような問いを発するまでもなく、石を材料として作られた美術ということであるが、「石造美術」という熟語は従来使用されたことがなく、私が初めて使い出したものであるから、いささか説明を加えておく。

 まず、左(下)に大略の種目を掲げる如く、その多くは信仰の対象物であって、美術として取り扱うのはその方面からいえば不都合であるかも知れぬが、従来から仏像の如き、建築の如きものをも美術としての方面から研究されてきた例があるので、石造遺品についても、信仰上のことはもちろんであるが、美術としての見方からも研究するのである。

 また、その美術としての範囲については、例えば五輪塔の如く、その形態がまったく人工的に製作されたのはもちろんであるが、自然石のままでも、その石面に美術的彫刻を施したものまで取り扱う。

 次にその研究上の限度は、飛鳥時代以降江戸時代に至る範囲とし、古墳の石棺の如き原史時代的のもの及び明治以後のものは除くこととする。

 そこで、以上の事柄を要約して、石造美術の意義を記してみると、

 飛鳥以降江戸時代に至る範囲内に属し、石を材料として製作されたる遺品にして、その形態まったく人工的なるものはもちろん、自然石にても石面に美術的彫刻を加えたるものを含む。

 ということになる。

 上記の如き意義とするのであるから、この石造美術の名称の下に属するものはすこぶる広汎にわたるわけで、今その種目の主たるものを挙げてみると、

 層塔
 宝塔
 多宝塔
 宝篋印塔
 五輪塔
 板碑
 笠塔婆
 無縫塔
 石幢
 石仏
 龕・廟
 石灯籠
 手水鉢
 石鳥居
 狛犬
 石橋
 石碑

 等々、枚挙にいとまがない。なおこの他に、建築の部分であるところの鴟尾・露盤・礎石などの中には石造美術に関連して研究すべきものもあるが、ここでは触れないことにする。

 上掲の如き多数のものを一人で研究することは、混雑をきたすであろうと考えられるかも知れぬが、しかしこれらは多く連絡があるからさして困難ではない。例えば格狭間の如きは各種石塔・石灯籠に共通の部分であるし、蓮弁の如きは各種石塔・石灯籠・石仏等に通じて行なわれているように、それぞれ関係がある。

 また、これら多数の種目のうち、特に研究の対象として主要なものは自ら限定されてくる。すなわち、層塔の如きはその遺品飛鳥時代より江戸時代に至るまで続き、その手法の変遷、歴史的価値も多いが、狛犬の如きは石造のものでは多くは桃山時代をさかのぼらず、自然に研究範囲が狭くなるという具合である。

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「石造美術」について、ご理解いただけましたでしょうか?

 まず大切な部分は、「多くは信仰の対象物」ということだと思います。石造美術の範囲が飛鳥時代からとなると、いまから1,400年以上前ですし、江戸時代の終わりでも、いまから150年前です。長い間、人々の信仰の対象だったものが石造美術となります。信仰の対象物だから現在まで残っているのであり、さらにいえば、「石だから現在まで残っている」といえるでしょう。

 川勝先生は、石造美術に関する本をたくさん出されており、その一部は当サイトの「蔵書のご案内」の「石」のカテゴリーで紹介しています。川勝先生の言葉は、またご紹介したいと思いますので、お楽しみに!

「石造美術」という言葉を残してくださった川勝先生に感謝するとともに、現代でも「石造美術」に匹敵する石造物を数多くつくっていきたいものです。


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