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写真展鑑賞 「Monuments|米田拓朗」新宿photographers’gallery

2023.06.30

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「Monuments」は、写真家米田拓朗氏によって、自然界に存在する石から、石碑など人々の暮らしの中にひっそりと佇む石など、様々の石とそれを取り巻く世界を写真に捉えた個展です。
photographers’galleryはその名の通り、写真家の個展をメインにしているギャラリー。

こうしたギャラリーでは、先鋭的でまだ世に知られていない面白い作品に出会える楽しさがあります。

 

 

下の写真右側の、民家の前に佇む庭石を撮られた作品で思い出したのが「流しの庭石屋」さんです。
それは、私が石材卸商社に転職した十数年前、先輩ベテラン社員から聞いた話です。

「昔は流しの庭石屋さんという業者さんがいてね。クレーン付きのトラックに庭石を満載して、大きな庭のある家を見つけては、飛び込みで庭石を売りながら旅をする業者さんがいたんだよ」

勢いに押されたお客さんが「ほな、その庭石一つもらいましょうか」とその場で買ってくれる(そして有無を言わさず、庭に石を置いて行ってしまうのだろうか?)時代の空気感、ちょっと想像が出来ませんが、コツさえ掴めれば当時は商売になっていたのでしょうか。

そもそも、その話をしてくれたベテラン社員の「流しの庭石屋」さん情報は、石屋さんの間で交わされている話題だったようです。

私の中では、フーテンの寅さんと勝手にイメージをダブらせていますが、庭石を売って旅をしていたという「流しの庭石屋」さんは実在されていたのでしょうか?

上の写真左側(奥側)の、記念碑を横からとらえた作品。

「人工的にスパッと切られている碑を見ると、元々そこにあった側の石の塊を無意識に感じてしまうんです」

たまたま在廊されていた写真家米田氏から、そのようなニュアンスの思いを聞かせていただきました。

石製品には、コヤスケやノミではつっただけの荒々しい状態の石を、一部カッターで切り落とし、磨いて碑にしたものがあります。石らしい風合いや、時間が経つにつれて増える汚れやコケも味わい見えることから、墓石業界内では(少なくとも私の身の回りでは)こうして作られた墓石を「自然石墓石」などとも呼んでいて、一定の人気がある形状です。

商品としては碑面を前面に見る位置が正面としますが、そこは石材業界内の話。真横からとらえた作品からは、削り取られた部分への想像が沸き起こってきます。(是非、ギャラリーの大きな写真でご覧ください)

 

 

山の斜面に飛び出した巨石をとらえた写真の拡大。(写真全体は、ぜひギャラリーでご覧ください)

私は、ここの土地の所有者が、この岩についてどう思っているのか、気になりました。
この周囲に巡らされているあぜ道を発展させていくと、巨石を取り込んで建てられたフランク・ロイド・ライトの落水荘のようになりそう…などという、写真から広がる妄想も楽しいものです。

 

『写真展Monuments』、会期は7月10日まで。新宿photographers’galleryで会期中無休で開催されているとのことです。

ありふれた自然の中や、人間のごく日常にある石の風景が、非日常空間のギャラリーに並ぶことで生み出される、石への新たな視線に浸ってみるのはいかがでしょうか。


↓個展&作家の詳細はストーンサークルの案内ページ↓
https://stone-c.net/seminar/8137

↓フォトグラファーズギャラリーのホームページ↓
https://pg-web.net/

※会場内の写真は作家の許可を頂いて掲載しています