特別企画

お墓や石について、さまざまな声をお届けします。

小田垣商店本店改修工事の石の景色―建築家 榊田倫之

2021.06.18

多種の石が混じり合う京都の町家石と
棗形手水鉢がつくる景色

まず、もともと店舗として使用していた建物をショップとカフェ「小田垣豆堂」にリニューアルしましたが、そのショップのエントランスからショップ後方に続く旧酒蔵までの床全面に京都の町家(まちや)の石(町家石)を敷いています。京都の町家石は幅450×長さ900ミリ、厚みは約120ミリのサイズが多いのですが、それを表面加工などをせず、約230平米施工しています。

石の産地は1ヵ所ではなく、瀬戸内周辺のいくつかの地域から産出されたもので、年代は古いもので江戸時代と思われます。もともとは産地ごとにまとめて出荷されて使われていたと思いますが、新素研が古材として入手するときは、異なる産地の石が混ざった状態で出て来ます。当然、町家のなかでの使われ方や使用期間などもまちまちだから、色合いや風化・摩耗の度合いも違い、その不揃いさが町家石の面白さ。すべての石が違う味を持っていて、それを並べると景色になります。目地には少し黄色がかった、肌色に近い深草土を使用しています。


新素材研究所・小田垣商店本店町家石は産地の異なる瀬戸内周辺の花崗岩を、表面加工せずに約230㎡敷く。色合いや風合いの異なる石たちが織りなす景色が美しい


石工事は石屋さんにお願いし、事前に町家石を仮並べして、石の配色やバランスなどを考慮しながら使い方の方針を決め、それを共有してから施工しています。表面加工はせず、熟(な)れた表情をそのまま生かして使用していますが、長さや幅は調整しています。

また、ショップには棗(なつめ)形手水鉢を13個置き、そこに黒豆などの商品をディスプレイしています。手水鉢はご存知のとおり、もともとは寺社などで身を清めるためのもので、当初は自然石の造形を生かした形状だったのが、その後、茶の湯にも取り入れられ、石塔や灯籠の部材を転用したものが出現し、江戸時代になると創作型が主流になり、棗形、銀閣寺形、銭形など、江戸特有の華美な装飾に変わっていきます。棗形は特に大正時代にかけて流行し、今回の13個もそれぞれつくり手は違いますが、ほとんどが大正期のものだと思われます。


新素材研究所・小田垣商店本店ショップ内


新素材研究所・小田垣商店本店ショップのエントランスの風景。屋久杉の「黒まめ」の扁額(看板)は杉本博司氏が揮ごう。杉本氏は最近「書家」の肩書きも加わり書に勤しむ毎日


新素材研究所・小田垣商店本店ショップから奥の眺め。町家石と棗形手水鉢が味のある落ち着いた空間をつくり出す


いまはコロナの感染防止のために袋詰めしたものを販売していますが、もともと小田垣商店では黒豆や小豆などの量り売りをしたいと考えていて、棗形手水鉢は形状がお豆みたいだし、そこからお豆がこんこんと水のように湧いているようで面白いなと(笑)。手水鉢は一つひとつが重いので、設置や移動は一苦労ですが、これもあえて手を加えず、そのままの形状や表情を生かして使用しています。

以上が、第1期工事での建築における石の見どころですが、実はショップの背後の空間に、今回のリニューアルオープンを記念して、地元のセレクトショップ・アーキペラゴ(http://archipelago.me)と新素研とがコラボした期間限定のコンセプトショップをオープンしました(2021年5月9日で終了)。そこでは新素研オリジナルのプロダクトである大谷石のあかり「亀甲行灯(きっこうあんどん)」や大谷石を使ったテーブル、また庵治石のプロダクト(AJI PROJECT)なども提案し、好評をいただきました。


新素材研究所・小田垣商店本店
新素材研究所・小田垣商店本店上2点:期間限定のコンセプトショップで大谷石を使用したテーブルやAJI PROJECTなども出品

これまでの写真:森山雅智


新素材研究所・小田垣商店本店新素研オリジナルの大谷石の「亀甲行灯」
©New Material Research Laboratory


少し余談になりますが、私、2020年3月に栃木県宇都宮市と大谷石材協同組合から「大谷石大使」の第1号に委嘱していただき、大谷石の振興に貢献すべく、新素研のプロジェクトなどを通じて大谷石の魅力も発信しているところです。日本の石が大好きなんです(笑)。

小田垣商店本店の改修工事は第4期まで続きます。今後の石の使用は未定ですが、コロナが落ち着きましたら、ぜひご見学ください。



◇小田垣商店本店
兵庫県丹波篠山市立町19番地
https://www.odagaki.co.jp

◇新素材研究所
https://shinsoken.jp


出典:「月刊石材」2021年5月号
聞き手:「月刊石材」編集部 安田  寛