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子どもを授かる「またぎ石」~子安神社(岐阜県大垣市)

またぎ石

 岐阜県大垣市にある子安神社の境内に「またぎ石」と名付けられた石があります。神功皇后の鞍掛石(股ぎ石)で、この石をまたぐと「子どもを授かる」といいます。

 石は3回またぐ必要があり、拝殿に向かって1回目が奥さま、2回目がご主人、3回目が2人でまたぎ、それぞれ神様に礼拝するということです。

 

 石に腰を掛けると「安産」という話は各地にあるようであり、「石に腰を掛ける」という行為について、石上堅「子を生む石」『石の伝説』(雪華社)に次のように書かれていますので紹介します。

(前略)
 縁結び・子孕みが、石の霊力によって果される以上は、安産とてやはりその責任を、石が負わされている。記紀に誌される神功皇后(息長帯比売・いきながたらしひめ)の鎮懐石(ちんかいせき)をはじめとして、各地に産石・児守石・子持石・子安石などと伝える石がそれで、あるいは山の神・道の神の石とし、あるいは境の石の大きなものから、村境の浄域から拾って来た石にまで、安産の霊力を認めている。山の神は十二人の子を、石の上で無事生んだと云い、それが熊野信仰に結びつき、さらに鹿の安産と結びついて、霊石の神秘を信じない人々に、納得・理会が出来る条件を、次々と加味させてもいる。

(中略)
 そして安産は、石の上・下で、あるいは孕石から迎えた子石を頭にのせる(福島県信夫郡鎌田村・子持石など)とか、石を撫でる、その石に腰かける(沼津市出口、子持川畔の子持石など)ことによって果される。結局、これらの諸動作は、魂よばい(招魂)をする呪術動作に、その源があったのだ。石にのったり、腰かけただけで、安産出来るほどなら、難産する者はいないはずと、伝説が維持されて来た信仰に縁遠い町住みの人々は、口にするでもあろうし、従って日常こともなげに繰り返す、腰を掛ける動作などが、以前は呪術の動作として、その効果を信じられていたなどとは、想いも及ばないことになろう。伝説は、少なくとも、その地域の人々には、実物に纏わって、まさしく信じ伝えているものであるので、この点の筋合いの輪郭を、理解しておくことも一利となろう。

(中略)
 つまりは、石を踏んだり、叩いたり、撫でたり、石に腰を掛けたりする伝説は、その石に伝主人公の霊を招き降して、物語を喧伝してあるいた巡遊伶人(じゅんゆうれいじん。瞽女・比丘尼・巫女・盲僧・座頭・神人など)の徒(和泉式部・道真・虎・小町・五郎などを名乗る者)の作法が、伝承の拠りどころになっているのである。神輿を石の上に据えたと説くのも、神の霊魂の移動をはたすための呪具が、神輿であることをおもうと、その石の上に神出現の次第を説くようになったのが源であったろう。

(中略)
 腰を掛けるというなんでもない動作が、石を中心にして伝えられる場合には、悠遠な祖々の生活を、理想的に維持しようとして、お互にあたたかく信じ守って来た信仰意識を、無意識ながらも、依然、振り捨てきれずにいることを考えねば、いつの日か、冷たい非情の石となり、その石とて自ら裂け散って、土に化してしまうことであろう。私どもが、それをはやめてしまった多くの石のあることを、しみじみ悲しむのは、それに纏わる祖々の愛情をさとる一つの手掛りを、失ったことになるからなのだ。

 

石工技能を生かして「いい石」をつくる現代の石工たちを紹介します。