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「岩手」の県名の由来は石だった!?~三ツ石と鬼の手形にまつわる伝説

 
 岩手県の県名の由来が「石だった!?」ということはご存知でしょうか。そのルーツとされる岩手県のとある神社を訪れ、真相を探りました。

 

 

・岩手の由来は三ツ石神社の3つの石

 岩手県盛岡市にある三ツ石神社。鳥居の前に立つと、しめ縄が張られた3つの巨石に思わず目が奪われます。この3つの石は「三ツ石様」と呼ばれ、今も語られる伝説となっています。俗にいう「三ツ石と鬼の手形」の物語です。

 境内にある三ツ石神社由来(昭和47年8月27日社殿落成日 三ツ石神社奉賛会)には、下記のように書かれています。

 

 「岩手」の呼び名について、大和物語によれば「平城天皇の御代にみちのくの国から鷹が献上され帝は岩手と名づけた」とある。俗説では「三ツ石と鬼の手形」の物語が岩手の地名や不来方(こずかた)の起源や地名であるといわれている。
 伝説によれば、むかしこの地方に羅刹という鬼が住んでいて、付近の住民をなやましい旅人をおどしていた。そこで人々は三ツ石の神にお祈りをして鬼を捕らえてもらい境内にある巨大な三ツ石に縛りつけた。鬼は二度と悪事はしない、また二度とこの地方にはやってこないことを誓ったので、約束のしるしとして三ツ石に手形を押さえて逃してやり、それからこの手形のあとには苔が生えないといわれている。
 しかし長い年月がたっているので今ははっきりしません。この岩に手形を押したことが「岩手」の県名の起源だといわれる。また鬼が再び来ないことを誓ったことから、この地方を「不来方」と呼ぶようになったと伝えられている。鬼の退散を喜んだ住民たちは、幾日も幾日も踊り神さまに感謝のまごころを捧げた。この踊りが名物「さんさ踊り」の起源だといわれている。
 

 つまり、二度と悪さをしないと誓った鬼が「岩」に「手」形を押したことが、「岩手」の県名の由来になったというのです。

・3つの石の成り立ちと種類

 ここからは3つの石の成り立ちと種類について、調べてみましょう。

成り立ちは諸説あり

 3つの石は岩手山の噴火によって、この地に飛来したと伝わります。これに異論を唱えるのが、産業技術総合研究所の加藤碵一氏です。加藤氏は『みちのく石便り(その4)岩手の石と岩』で、次のように記しています。

「岩手山が噴火したとき飛来したと伝えられていますが、河川で運搬された巨礫でしょう」
引用:加藤碵一著『みちのく石便り(その4)岩手の石と岩』

 三ツ石神社から200~300メートルほどの場所に、中津川(一級河川)が流れています。北上山地から流れる中津川が巨石を運んできたという説も信ぴょう性があります。

 また、3つの巨石はもともとひとつの石だったと伝えるのが、三ツ石神社由来です。

 三ツ石はもとは一個の大きな岩であったが、長い年月の間に三ツに割れて現在の三ツ石になったのである。むかしこの地方「愛宕町名須川町三ツ割」を三ツ石野とよんでいた。この大石の碑は三ツ石の割れた一部分で土中に埋もれていたものであるが社殿新築にあたりこの場に移し由来文を挿入したものである。
 引用:三ツ石神社由来

種類は花崗岩

 三ツ石は花崗岩です。花崗岩はマグマが冷えて固まってできたもので、通称「みかげ石」といも呼ばれています。
ちなみに、石の割目から桜の木が育っていることで有名な「石割桜」の石も、三ツ石神社の三つの石と同じ岩質です(加藤碵一「みちのく石便り(その4)岩手の石と岩」)。三ツ石神社と石割桜のある盛岡地方裁判所は近いので、石割桜の石も三つの石と一緒に「神」としてまつるために運ばれてきたのかもしれませんね。

 

・3つの石を神としてまつる例は多数

 3つの石を神としてまつる例は多く、柳田國男は「神樹篇」の「腰掛石」(『柳田國男全集 14』ちくま文庫)のなかで、次のように述べています。

 「(前略)山城西梅津村の梅宮の境内に、影向石(ようごう石)または三石(みついし)と名づけて、特に鳥居を立てて、三の石を崇敬していた。熊野三所権現の影向所で、熊野山より三の鳥来たって石に化したと伝えている(山城名勝巡行志四)。特に三箇の石を神と祀る信仰は例の多いことであるが、ある地方では三石をもって右のごとく単に神の遺跡とのみ解しているのである。
 (中略)すなわち石柱によって神を降ろす風は事によると木柱よりもなお古く、古代人は単に天然の立石ある地を択んで年々の祭神を饗(もてな)したのみでなく、もし技工が許すならば神地に石の柱を建ててこれを高天原からの梯子(はしご)にしたかも知れぬ。(中略)人作の石柱が往々にして今も各地に存し、その由来に関し神怪なる口碑を存することである。高卒塔婆(たかそとば)という名をもって伝えらるる各地の柱が、稀には木をもって製作し時々これを新たにするものもあるが、多くは天然の岩石の空に聳(そび)ゆるものを呼んでいることである。少なくも石多き日本では、夙(はや)くから石の柱が木の柱または神木のように、神を迎え祭るために用いられてきたとは言い得るだろう」
 引用:柳田國男「神樹篇」より

・所在地

◎三ツ石神社
所在地= 岩手県盛岡市名須川町2-1

・まとめ

 今回は岩手の県名のルーツである三ツ石神社の3つの石を紹介しました。古くから神秘的な石は人々に胸をときめかせ、時にはご神体として崇めてきました。今後もこのような石を紹介し、石の魅力をお伝えしていきます。

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