特別企画

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東日本大震災鎮魂と追悼のモニュメント―彫刻家・画家 武藤順九

2021.06.17


武藤順九・東日本大震災鎮魂と追悼のモニュメント


宮城県石巻市・石巻南浜津波復興祈念公園
東日本大震災鎮魂と追悼のモニュメント

未来へ向けて、あらゆる生命の尊さ、
人間の力強さを伝える希望の象徴となることを願う
制作者 彫刻家・画家  武藤順九氏

*トップ画像:東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城県石巻市南浜地区に2021年3月28日に開園した石巻南浜津波復興祈念公園内に設置された「東日本大震災鎮魂と追悼のモニュメント」(制作:武藤順九氏、作品名「CIRCLE WIND〈風の環(わ)〉 2011–絆–」、W3.0×H2.1×D0.9m〈台座除く〉、イタリア産大理石/台座:黒みかげ石)。震災直後、武藤氏が当地で見つけた瓦礫のなかで力強く芽吹いていた双葉をモチーフとする


3.11、10年前のあの日
このたび「東日本大震災鎮魂と追悼のモニュメント」(作品名=「CIRCLE WIND〈風の環〉 2011–絆–」)が建立されました。まさに震災から10年、いろいろな方々の思いがあり、(被災地の状況も含め)よくここまで来れたなと感動しています。そして、私自身の故郷(ふるさと)でもある宮城県の未来に向け、復興のシンボルとなるモニュメントをつくりたいという思いを後世に伝わる形にしていただき、関係者の皆様に心より感謝申し上げます。

あの震災は本当に悲しい出来事ですが、こうして復興に向かう皆さんの姿を見ていると、人間の力強さ、すばらしさを改めて感じます。もちろん自然の力もものすごいですが、やっぱり人間もすごい。みんながまさにゼロから頑張って、ここまで持ち直している。このモニュメントが、被災地の方々の力強さを伝えるシンボルになってくれたらうれしいですね。

あの震災、そしてこのモニュメントには、私自身にも非常に思い入れがあります。私の実家は仙台市内にあり、いまも母が暮らしていますが、建物が半壊するなどの被害を受けました。私は東京・銀座の画廊にいて、ちょうど翌日の3月12日から開催された展覧会(個展)の最後の準備をしていました。まさに関東大震災の再来かと思うほどの揺れに恐怖を覚え、銀座の街もすべて停電になるなか、スタッフが持っていたパソコンでニュースサイトを見ていたら、津波に襲われる仙台空港の映像が流れ、「まさか故郷が……」と愕然(がくぜん)としました。

私は当時、イタリアの他に国内には京都にアトリエを持っていましたが、電車は不通で、道路も寸断されていましたし、身の回りのことも含めて状況が少し落ち着いてきた4月初旬、ようやく宮城へ帰りました。以前から“みやぎ夢大使”(震災を機に“絆大使”に名称変更)に任命されていましたので、その関係もあって県庁に寄ると、担当者が「被災地をご案内しましょうか?」と。それで車でこの石巻・南浜地区にも連れて来ていただきました。


武藤順九・東日本大震災鎮魂と追悼のモニュメント日和山(石巻市)から望む現在の南浜地区

武藤順九・東日本大震災鎮魂と追悼のモニュメント2021年3月28日に開園した石巻南浜津波復興祈念公園。左端にモニュメント、右端に震災遺構・門脇小学校校舎が見える(撮影:3月18日)



瓦礫のなかに見つけた小さな生命
双葉をモチーフに
まず日和山に上がって全貌を見て、それから南浜地区を回りました。そのとき目にした光景は、とても言葉では表現できません。ただ、南浜で車を降りて、瓦礫のなかを歩き回っていたときに、瓦礫と瓦礫の間に、小さな双葉が芽吹いているのを見つけたのです。

私はもう夢中になってカメラのシャッターを切っていました。なぜそれほどまでにその双葉の写真を撮っていたのか、いまから考えればよくわかるのですが、ものすごい感動を受けたからです。そして驚きもありました。こんなにも壊滅的に破壊された状況のなかで、自然界ではもう新しい生命が芽生えていたのです。それこそ、希望の象徴のようにも見えました。

そのときはまだモニュメント建立の話はなく、ただ自分自身の記録として写真を撮っていたのですが、その後、「被災地復興のシンボルとなるようなモニュメントを」とご相談されたときに、私はすぐにその双葉を思い出し、直感的に作品のイメージが湧きました。このモニュメントは、あの日、私が瓦礫のなかで見つけた双葉をモチーフにしてデザインしたものです。


武藤順九・東日本大震災鎮魂と追悼のモニュメント
武藤順九・東日本大震災鎮魂と追悼のモニュメント武藤氏の制作テーマである「生命の流転」をメビウスの輪の形に託し、見る角度によってさまざまに表情を変える


また、もともと私の制作における重要なテーマは“生命”です。人間だけに限らず、自然のなかで繰り返される“生命の流転”です。それを“メビウスの輪”の形状のなかに表現しています。メビウスの輪には表と裏、光と影が同居するわけですが、観念的に宇宙のあり方に一番近いともいわれています。だからでしょうか、インド・ブッダガヤの私の作品(世界遺産・マハボディ大寺院に永久設置されている「CIRCLE WIND〈風の環〉-PAX2005-」)をご覧になって、ダライ・ラマは「これは宇宙の形だ」というコメントを残されています。(武藤氏のインタビュー「常に新しい感動を求めて石と向かい合う」もご参照を

他にも世界各地の聖地といわれる場所などに作品を置いていただいているのは、やはり人間の原点である普遍的な生命に対する思いが、民族や宗教・思想が違っても、みな一緒だからだと信じています。そういう生命への思いを作品「風の環シリーズ」には込めてきたわけですが、それはこのモニュメントでも同じです。

プロジェクト(一般社団法人東日本大震災鎮魂と追悼のモニュメント建立プロジェクト、藤﨑三郎助理事長)が正式に立ち上がったのは2013年で、当初は建立地も未定でした。モニュメントの制作は、イタリア・ピエトラサンタの工房で2016に約1年をかけて行ない、建立地はいくつかの候補地のなかから、最終的にこの石巻南浜津波復興祈念公園に決まりました。私自身があの双葉を見つけた、まさにこの地に、復興と希望の象徴となるモニュメントを設置することができ、とても大きな感動を覚えています。