特別企画

お墓や石について、さまざまな声をお届けします。

礼拝には、揺らぐことのない石が必要―建築家・押尾章治

2020.11.13

石を祈りの空間へ解き放つ

石の役目
現在、石の需要は減ってきていますよね。墓石自体の需要が減っているところに、樹木葬も台頭しています。樹木葬が支持されるのは、もちろんお墓の継承の不安を払拭(ふっしょく)しやすいということもありますが、自然回帰や自然信仰的な価値観の見直しもあると思います。もちろん石も自然素材ではありますけれど。

石は礼拝環境のなかでは、かたちあるものとして残る役目を負っています。発声した端から虚空に消える言葉とは異なります。いわば、お経と仏像のような関係でしょうか。石には、常に現在性を孕(はら)みながら人間より長生きし、さまざまな出来事を未来へと、直接体験として伝えてくれる有難さがあります。

建築家・押尾章治植栽と合わせた合祀墓計画案(2016年、愛媛)
(CG図:UA)



石を前提としたストーリー
仮に、自然環境から突出することのない樹木のようなお墓に、社会の意識が向いているとしても、私はそれで石の可能性がなくなるということはないと考えています。石でなければ成し得ないストーリーを前提とした空間体験をつくればいいと思っているからです。新しい礼拝施設の材料を石にするか否かではなく、石のストーリーを前提としたらいいと思うのです。

たとえば、日本には石の産地が200ヵ所以上あったと聞いたことがあります。私は外国の石よりも、日本の石を使うほうが圧倒的に面白いと思っているのですが、それはやはり地域に因(ちな)んださまざまなストーリーを孕んでいるからです。その産地と、故人への祈りや供養の気持ちを石のストーリーでつなげ、空間体験のデザインに活かせばいいのです。

産地の歴史や人々の思い、風土や自然環境などの数だけストーリーは生まれます。

石による空間体験のデザイン
また、方法論としては、ストーリーの活用以外にも当然、石の使い方もありますね。通常、礼拝対象としての墓石は四角い石の塊(かたまり)です。少し差異を工夫したとしても、かまぼこ型やプレート型のものになる。でもそれだと、単に石の可能性を狭めているようにも思えます。

そうではなく、礼拝対象自体をオブジェ的な塊から解き放ち、空気を孕むような構成を考えるのも可能性があると思います。石の単位を小さくして石組みのかたちや構成、素材感をつくり出す。たとえば市松状の石組みやさまざまな格子状にしてもいいですし、他の素材との組み合せとして、植栽と合わせてもいいと思います。塊の大きさを分割して軽やかに扱ったり、別の素材と合わせることで、新しい自然観や祈りに対する世界観も生まれます。

加えて、その素材の構成や組み合わせは、祈りへと向かうアプローチ空間にも反映しやすくなります。一続きの流れの空間体験としてのデザインとすることで、より豊かなストーリーを綴ることもできると思います。

墓石自体の工夫だけでは、現状打開は難しいと思いますが、一続きの礼拝体験とすることで、まだまださまざまな可能性があると思います。石は高価な材料なので、礼拝にまつわる多様な要素を採り入れ、効果的に使わないともったいないですね。

建築家・押尾章治
建築家・押尾章治 ふたりのお墓「&安堵」千葉県船橋市、埼玉県東松山市2016年
「&安堵」は白い大理石でつくるお墓。従来の家族墓とは違い、間柄を問わずに2人で入るお墓。継承や維持管理の心配がない。敷地や墓地の区画にかかわらず、さまざまにレイアウトできる。なお「&安堵」を設置した船橋市の霊園では、墓参の際にしたためた手紙をお寺が供養して故人へと届けるブランディングも手がけ、「手紙処と手紙標」をつくっている
(写真:新美勝)