特別企画

お墓や石について、さまざまな声をお届けします。

内包する記憶、時間を守り続ける石の姿が美しく、感動する―彫刻家 岡本敦生

2020.11.19

――今回の展覧会「岡本敦生展・石彫刻」(2019年5月7日~6月27日、東京ガーデンテラス紀尾井町にて)でも、内部に何かを収めている作品があるそうですね。
岡本 作品『遠い記憶』には、私の生家に古くから残っている恵比寿さんの顔をイメージして彫った石を入れています。

――おもしろいですね。石を「記憶装置」として使うんですね。
岡本 
そう。木棺もありますが、昔から棺には石が多いですよね。やはり石は時間を超越したサムシングを持っているのだと思います。

古代の石棺も、表面が朽ちかけたとしても、内部の記憶、時間はしっかりと守り続けていますよね。それは美しい姿です。表面のかたちが何かを表しているから美しいというのではなく、表面は朽ちても、内包するものを守り続ける石の姿に感動します。

そういう石の本質、特質に、私は惚(ほ)れ続けているんです。

最近は大小の石に穴を貫通させて、すべての穴が石の内部でつながる作品もよくつくっています。驚いたのは、穴がつながると、石が呼吸を始めると感じたことです。ごろんとした大きな玉石でも穴を開けていって、穴が一つひとつつながるたびに、石が生きかえるというか、呼吸を始めて生き物になるような雰囲気がある。そういうことも、石からは感じています。

彫刻家・岡本敦生ロンドンのUniversity the Arts in London(Chelsea College of Art & Design)のthe Rootstein Hopkins Parade groundで個展を開催した。個展タイトルは「Forest」。この空間は、惑星の運行を象徴した設計になっていて、そこに6点を展示した。写真手前は作品「Forest 2011-3 planet」(2011年、Warwick Art Center蔵)。バザルトの玉石(黒みかげ石の玉石)で、石の穴の中に水の音が入っている。サイズ:130×85×120(h)㎝

彫刻家・岡本敦生作品「遠い山」”Faraway mountain”(2006年、UKのコレクター蔵)。ロンドンでの個展「Forest」にて、広場の中心にあるスクウェア空間に設置した。白みかげ石、サイズ:150~165(h)㎝の石柱12本(1個の石から割った石柱)

彫刻家・岡本敦生作品「Forest 2011-2 planet」
(2011年、Warwick Art Center蔵)
バザルトの玉石(黒みかげ石の玉石)
サイズ:140×100×100(h)㎝
ロンドンでの個展「Forest」にて



石が「もう割るな」

――石、もっというと地球とつながるような感覚でしょうか?
岡本 そうかも知れませんね。

以前、山口県宇部市の現代日本彫刻展に招待されて、作品制作を依頼されたときに、前述した石を割る作品で、原石から割った石が石畳になり、広場になるような作品をつくろうとプランニングしました。それで3.5×1.2メートルくらいの大きな玉石を見つけて、それがまたいい石だったんです。

その石切り場で、まずは玉石を二つに割ってから制作を始めるつもりで、石の周りに矢穴をあけて矢を打ち込み、いざ石を割ろうとしたときに、その石が突然電波を発するというか、私に強いメッセージを送ってきたんです。

「割るな」と。

それはショックでしたね、「何なんだ、この感覚は!」と。それからもうその石は割れなくなりました。1週間くらい毎日、石切り場に上がって、その石と対峙しましたけど、もう二度と割れなかった。職人さんが来て、「(技術的に)割れないなら、オレが割ろうか?」というんですけど、そういう問題ではないんですよね(笑)。

結局、その石は山に戻して、今度は玉石ではなく、切り出された石で作品を完成させました。でもこのときは、特に玉石を相手にする際には生半可な精神状態では絶対に負けるということに気づかされましたね。

――すごい話ですね。そういうことを感じられるのが、先生の作品づくりというか、石に対する姿勢なんでしょうね。
岡本 岩盤から切り離された、ブロック状の石ならそこまでならなかったでしょうね。自然のままの玉石は、何だかそれだけで宇宙のなかの一つの星みたい。だからそれを強引に割るというのは、もうダース・ベイダーが星を破壊するのと同じイメージですよ(笑)。

彫刻家・岡本敦生内部で繋がった穴を彫り出すシリーズ
作品「息を彫る2015」
“excavation of breath 2015″(2015年)
バザルト(黒みかげ石)の玉石
サイズ:187×116×100(h)㎝)