特別企画

お墓や石について、さまざまな声をお届けします。

内包する記憶、時間を守り続ける石の姿が美しく、感動する―彫刻家 岡本敦生

2020.11.19

お墓も、内部に魂がこもっていそうな
石の使い方を考えたい


――話は変わりますが、ご自身のお墓はどうされていますか?
岡本 まだ考えていないです。でも、イサム・ノグチのようなお墓はいいですね。

四角形というのは、キープするのが一番難しい形状です。特に切って磨いたピカピカで、カチンとして、ビューンと立っている石というのは、実はとても弱いものと感じます。角があって、何かで倒れると欠けたり、壊れたりしやすい。お墓は基本的にすぐに壊れたら困るわけですから、壊れないかたちを考えるのも大事だと思います。ごろんとして、ある程度の大きさのある石がいいですね。

だから、加工してつくるにしても、有機的なかたちにすればいいのではないかという気がしますね。そうすれば、日本のような地震国でも壊れにくくなります。

――いままでのお話のなかにも石の使い方がありましたが、現代の墓石づくりにおける石の使い方をどのように見ていますか?
岡本 やはり、工業的に生産していると感じますね。機械で切って、磨いて、当然、それだけ無駄も多く出てしまうわけです。それもあえて、石の一番弱い部分をおもてに出して使っているとさえ感じます。

お墓も、何か内部に魂がこもっていそうな石の使い方を考えたいですね。手彫りの時代、たとえばピラミッドの石棺も手彫りですが、やっぱり内部を守ろうとする力を強く感じます。

――思いを内包する力ですね。
岡本 そうそう。石が本来持っているはずの記憶するという特質が、ただ切って磨いてつくられたお墓では弱くなってしまうのではないかと。それよりももっと、素朴なかたちでも、石の強さ、持続力、記憶力などを発揮させるほうが大切なのではないかと思いますね。

矢で割って、少し手彫りして、名前は彫ったほうがいいでしょうけど、それをポンと立てるのが、本来の石の使い方であり、石の姿ではないでしょうか。

――貴重なご意見をありがとうございます。最後に先生はまだまだつくり続けますか?
岡本 うん、いまさら他のこともできないからね(笑)。でも、自分のなかに「もっとやってみたい」という気持ちがあります。まだまだやりたいことがあるし、きっとそれは尽きないのではないかという気がしています。「もうこれでいい」というのはないですね。自然界というのは、そんなに甘いものではないですよ。

だから、もっと本当の意味でごろんとしていて、いままでの私のやり方にはない、記憶をとどめる方法を見つけたいと思っています。それがある意味で、墓石になってもいいですし、違うものでもいいですね。

――研究所の先生の言葉「美術でも宇宙の果てに行ける」をお借りしますが、もうそろそろ宇宙の果てが見えていませんか?(笑)
岡本 まだまだまだ! まだね、地球すら飛び出していないかもわからんな(笑)。

――本日は楽しく貴重なお話をありがとうございました。



◇世界中の人々と作品をつくる「World Turtle Project」

彫刻家・岡本敦生

岡本敦生氏が2001年より全世界に向けて提案しているのが「World Turtle Project」、通称“亀プロ”である。ひとつの白みかげ石から割ったいくつもの石の破片を、協力者(コラボレーター)として募る世界中の人々に配り、5~7年間各自で持ち続けてもらった後に回収し、もとの石のかたちに組み上げるというプロジェクト。これまでに41ヵ国に配布して合計7作品が完成している。

「もとは水を吸って変色する石の性質を、もっとポジティブなものに替えられないかと考えたのがきっかけ。コラボレーターに常に石を身近なところでキープしてもらうと、石はその人の思いや日々の生活を記憶して、いろいろな色・表情になる。つまりその石は、それを持っていた人そのものということ」(岡本氏)

“亀プロ”は1
990年頃に思いついたが、コラボレーターの募集やコンタクトが困難で一時中断。2000年代に入りインターネットが普及すると容易となり、以後、岡本氏本人だけでなく、国内外の美術館やギャラリー、団体、個人等からも“亀プロ”による作品づくり(石の配布と回収)を望まれている。

岡本氏はさらに、5~7年の期間ではなく、生涯、その石を持ち続けるプロジェクトも展開。コラボレーターの死後に家族等が石を送り返し(返送先は広島市現代美術館を予定)、それを組み上げて作品とするが、「それはまさにお墓といえる。その人の人生を石は記憶し、色にとどめる」と岡本氏はいう。
※プロジェクトの詳細は下記に記載した岡本氏のウェブサイトをご覧ください。

彫刻家・岡本敦生

彫刻家・岡本敦生上:作品「Memorial Volume-turtle 2001-2003」。亀プロ最初の作品で2004年に発表(伊勢現代美術館蔵)。白みかげ石、サイズ:55×45×110(h)㎝
下:作品「Volume of Lives – Vol.2」(UK個人蔵)白みかげ石。2002年に配布、2007年~2008年に回収してもとのかたちに組み上げた




写真提供:岡本敦生
出典:「月刊石材」2019年6月号
聞き手:「月刊石材」編集部 安田 寛



彫刻家・岡本敦生
岡本敦生 Atsuo Okamoto
1951 広島市生まれ
1977 多摩美術大学大学院彫刻科修了
●近年の主な個展
2006 ギャラリー山口 & SOKO(東京)
2008 「岡本敦生展・FOREST」:ギャルリー東京ユマニテ、ギャラリー山口(東京)
2010 「Faraway mountain」岡本敦生展:Corn Exchange Gallery(エジンバラ/英)
2011 「Forest」岡本敦生展:Chelsea College of Arts & Design(ロンドン/英)
2014 「excavation」岡本敦生展:ギャルリー東京ユマニテ
2016 「岡本敦生展」:いりや画廊(東京)
2016 「Excavation2016(発掘)」:ギャラリーせいほう(東京)
2017 「水を彫る2017」岡本敦生展:伊勢現代美術館(三重)
●近年の主な企画展
2006/2008/2011/2013/2015 雨引きの里と彫刻(茨城)
2006 Sculpture Internazionale ad Aglie 2006(トリノ/伊)
2007/2009/2011/2013/2015/2017 ART SESSION TSUKUBA「磁場-地場」(つくば市)
2009 Milestone exhibition & project:Edinburgh College of Art(エジンバラ/英)
2010 Milestone exhibition:Yorkshire Sculpture Park, Pier Art Center(ヨークシャー/英)
2012. “Turtle project” Atsuo Okamoto:Art First Project(ロンドン/英)
●近年の主なシンポジウム・アートフォーラム他
2000 Gyongnam International Sculpture Symposium(チャングウォン市/韓)
2003 Bitburg International Sculpture Symposium(ビッツブルグ/独)
2006 Minnesota Rocks at Saint Paul(セイントポール/米)
2009/2011/2014 Sidney Nolan Trust artist residence(英)でワークショップを開催
●現在 女子美術大学 特別招聘教授

◇岡本敦生公式ウェブサイト
https://www.atsuo-okamoto.com/