いしずえ

お墓や石に関するさまざまな注目情報を発信します。

新素材研究所「IZU PHOTO MUSEUM」

2020.11.11

建築・造園・石垣



IZU PHOTO MUSEUM
イズ・フォト・ミュージアム
2009年
静岡県長泉町

新素材研究所 / 杉本博司+榊田倫之

伊豆の山々を望む富士山麓に位置するクレマチスの丘には、ベルナール・ビュフェ美術館、ヴァンジ彫刻庭園美術館、井上靖文学館をはじめ、庭園やレストラン等が点在している。そのうちの一つ、「IZU PHOTO MUSEUM」の設計(内装・坪庭)は、現代美術作家・杉本博司が新素材研究所を設立して間もなく手がけたものである。

エントランスの長いアプローチに沿って、
根府川石の自然石を荒々しく組む


坪庭の景色。白い壁と杉皮塀に苔と石が映える。新素材研究所の処女作といえる設計案件だが、杉皮塀や足元の敷瓦など、いまの新素研の〈シグネチャーデザイン〉がここで確立されていった


象徴的なのは杉本自身が「初めて試みた」という根府川石による大規模な石積みと、そこに組み込まれた石室である。石室は人が横たわるのに充分な広さを持ち、何か得体の知れない無言の迫力を伝えてくる。

根府川石を平積みして築く石垣と、大きく口を開いて組み込まれた石室。この石室について杉本氏は「床石、天井石、壁石と、ほとんど人の手を加えずに、石と石とはお互いを支え合って、まるでいま発掘されたばかりの古墳の石室のような姿で自ずから現れてきた」という

庭園(石垣)を望む館内スペース



杉本は次のように語っている。
「自然石の平積みにより石垣をつくっていると、まるでいま発掘されたばかりの古墳の石室のような姿が自ずと現れてきた。私は誰に指図されているのだろうか――この土地の歴史を調べると、近辺には縄文時代の遺跡をはじめ、古墳時代の古墳が散在していることが判明した。そのうちの一つ、恐らく神の依代として人々に崇められ、のちに祀られた神社の境内に残る原分古墳を訪ねた。すると、私の石積みがすでにお手本としてそこにあることを知り、不思議な思いにとらわれたのである」

石は時空を超えて人々に何かを語りかけてくるのであろう。


展示スペース

※同ミュージアムは現在、一時休館中


All photos: (c) Hiroshi Sugimoto / Courtesy of New Material Research Laboratory


*「月刊石材」2019年7月号より転載
内容は同号掲載当時のものです


◇IZU PHOTO MUSEUM
(イズ・フォト・ミュージアム)
用途:美術館(改修)
所在地:静岡県長泉町クレマチスの丘
完成:2009年
延床面積:499㎡
施工:鹿島建設
使用石材:根府川石

株式会社新素材研究所
https://shinsoken.jp