いしずえ
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羽黒石材商工業協同組合がトライアル世界戦日本GPのコースに地場産石材を提供
トライアル世界戦日本GPのコースに地場産石材を提供
石彫家・浅賀正治氏が副賞「石の楯」(羽黒青糠目石)を制作
羽黒石材商工業協同組合(茨城県桜川市)
石の楯を頭上に掲げて喜ぶトニー・ボウ選手。本大会GPクラスで18年間連続チャンピオンという偉業を達成した(写真は全て羽黒石材商工業協同組合提供)
「2024 Hertz FIM トライアル世界選手権第1戦大成ロテック日本グランプリ」が去る5月18・19日の2日間、栃木県茂木町のモビリティリゾートもてぎで開催されました。クラス別の優勝者6名(3クラス×2日間)には、地元の石彫家が制作した石の楯が副賞として贈られました。
GP Womenクラスで優勝し、10回目の世界タイトル獲得となったエマ・ブリスト選手。右側の男性が表彰式でプレゼンターを務めた長谷川代表理事
トライアルは、高低差や傾斜が複雑に設計されたコース(セクション)を、オートバイに乗ったまま障害物に飛び移ったり、走り抜けるモータースポーツ。世界選手権で50年の歴史があり、本大会ではスペイン人で17年間連続チャンピオンのトニー・ボウ選手の記録更新に関心が集まりました(2日間で約23,000人来場)。
茨城県桜川市と茂木町は隣接する位置関係にあり、同市岩瀬地区及び石岡市の石材業者(採石・加工・石工事等)で組織する羽黒石材商工業協同組合(長谷川正一代表理事)は2017年以降、同大会のトライアルコースに使用する花崗岩を2度ほど提供してきました。
今回も運営本部から要請があり、コース設計者の立ち合いのもと、原石や工場から出る背板など約160トン(10トンダンプ14台分)を無償で提供しました。これまでの提供分と合わせると、合計300~400トンほど(稲田石や羽黒青糠目石、外国産材など)になるということです。
トライアル競技のようす
斜面の所々に石材が障害物として設置されている
会場内には組合名の看板も設置された
材料を提供するに当たって「これらの材料は決してタダではなく、納品や加工・販売後の市場価格に換算すると、今回の提供分だけで少なくとも500万円くらいになる」と説明したところ、運営側の厚意により協力団体の一つとして名を連ねることになりました(会場内で組合の紹介や石製品を販売できる出展ブース〔出展料50万円〕、看板3枚などもすべて無料で用意してくれたそうです)。
同組合の出展ブース。一輪挿しなどの小物が20個ほど売れた
石の楯を副賞にすることは同組合が提案したことで、これも運営側の承諾を得て、同組合理事の石彫家・浅賀正治氏(株式会社綜合美術工房)が地元桜川市産の羽黒青糠目石を用いて制作しました。
「選手がコース上で格闘した大石塊と同じ産地の石であり、楯の上部を山の稜線風に加工したのは起伏に富んだ凹凸コースへの挑戦をイメージしてのことです。渦を巻いた2つのレリーフは、二輪(オートバイ)の命を、流れる雲として表現したものです。またこの渦模様は、1000年以上の歴史がある『運気雲』と呼ばれる装飾彫刻で、日本各地の神社や仏殿などに見られ、幸運を招くかたちとされています」と浅賀氏は制作意図を説明します。
優勝者に副賞として用意された「石の楯」
背面には、今日までの不断の努力と命懸けの練習を続けてきたことに対する最高・最大の賛辞として「あなたの努力に敬意を」と英文で刻まれています。
「楯のデザインを決める前、当組合員で各地の自動車レース(F3)に参戦している麻尾行夫さん(麻尾石材店)のガレージを訪ね、過去に獲得したトロフィー等を見せてもらうと、どれも金属製で同じようなデザインばかりでした。
石碑は本来、功績や栄誉を称えて後世に伝えるためのもの。絶対王者で最有力の優勝候補トニー選手は、いずれその偉業を称えて故郷スペインに博物館が建設されると思いますが、そのとき金ピカのトロフィーが並ぶなかでこの耐久性に優れる自然素材の石の楯が一番目立つのではないか。それを見て日本での活躍や感動を思い出してくれるのではないか。そう考えてデザインし制作しました」と浅賀氏は話します。
何かと暗い話題が多い昨今、こうした石の特性や魅力を最大限に活かした新たな用途が広まることで、その素材に対する評価や価値が見直されることを期待したいものです。
石彫家・浅賀正治氏による「石の楯」(羽黒青糠目石)制作のようす。本大会で開催された6つのクラスそれぞれの優勝者のためだけに、1つひとつ心を込めて異なるデザインでつくられた
◎羽黒石材商工業協同組合
茨城県桜川市友部1637
TEL:0296‐75‐5458
https://haguro.or.jp/