特別企画
お墓や石について、さまざまな声をお届けします。
石からの刺激を楽しんでいる―現代美術作家 杉本博司
磨いたお墓には味がない
――ところで先生は、ご自身で石を彫ることはなさらないですか?
杉本 もう70歳にもなって無理ですよ(笑)。
――実際に彫らなくて、デザインだけでもされたらとてもいいものができると思います。五輪塔なら「令和の五輪塔」のような。
杉本 光学硝子でつくった五輪塔はありますが、それは鎌倉のスピリットでつくっています。
杉本氏の作品『光学硝子五輪塔』
写真作品『海景』のフィルムを納める
――お墓がメインの雑誌なのでお聞きしますが、先生のお墓はどうされますか?
杉本 代々のお墓は鎌倉の近くにあるのですが、私の父がお墓の相を見る人に相談したみたいで、変なものにつくり替えられちゃったんですね。だから、それは嫌だなと思っているのですが、かといって、またつくり替えるのもね。
でも、五輪塔も宝塔も、もともとはお墓ですよね。いまの磨いたお墓というのは近代になってから普及したものですが、それにしても、どうしてみんな磨くようになってしまったのかと思います。キンピカ趣味で、味がなくなってしまいましたよね。字もいまはコンピュータ化されて中国でも彫っていて、そうなるともうどれも同じで、それでは死んでも何だかね、気分的にどうなのかなと思います。
卒塔婆でも、お坊さんは字がうまかったはずなのに、いま「これはうまい字だな」と思って見るとプリントで、まったく同じ字が並んでいたりして。あまり批判するのもまずいかな(笑)。
江之浦測候所「五輪塔」鎌倉時代
――はい(笑)。「石の景色を生かして使う」とのことですが、先生がお墓をつくるなら、石の肌を生かしながらになるでしょうね。
杉本 どうでしょう。私はこの江之浦測候所の敷地のなかで、鉄の宝塔(鎌倉時代)内に入れてもらえばいいかなと。
――最後に改めてお聞きします。石の魅力とは何でしょうか?
杉本 石、特に石造美術品の古いものには、奈良時代、平安時代、鎌倉時代と、時代ごとの様式美があって、それが非常に伝わってくるのが魅力の一つと思っています。だから日本中、いろいろな石を見て歩くのは楽しいですね。
縁があって、私のところに来てくれる石にも、年に何個かは「これぞ」と思う石があります。そうするとまた「この石をどう使おうかな」とわくわくします。
そういう石からの刺激を楽しんでいるのです。
――今回は貴重なお話をいただき、また一年間の企画ご協力、誠にありがとうございました。
江之浦測候所「鉄宝塔」鎌倉時代
杉本氏は自身のお墓について「江之浦測候所の敷地のなかで、鉄の宝塔に入れてもらえばいいかな」と語るが、この宝塔を指しているかは不詳
All photos: (c) Hiroshi Sugimoto / Courtesy of New Material Research Laboratory
出典:「月刊石材」2019年12月号
聞き手:「月刊石材」編集部 安田 寛
◇小田原文化財団 江之浦測候所
現代美術作家・杉本博司氏の構想により、人類とアートの起源に立ち返り、国内外への文化芸術の発信地として2017年10月に開館した。もとはみかん畑の広大な敷地にギャラリー棟、石舞台、光学硝子舞台、茶室、庭園、門、待合棟などの各種施設をつくる。
根府川石、小松石、滝根石、大谷石、十和田石などをふんだんに使用して設計デザインする建築・庭園空間は必見。また杉本博司氏収集による縄文時代・古墳時代・飛鳥時代・白鳳時代・天平時代・平安時代・鎌倉時代・室町時代・江戸時代など、文化財的価値の高い歴史的な石造美術品も多数配置するほか、足もとには京都市電の軌道敷石を敷設する。
石以外にも「明月門」(室町時代)、「鉄宝塔」(鎌倉時代)、「鉄灯籠」(桃山時代)、杉本氏の作品なども見どころ。春分・夏至・秋分・冬至の日の出も設計に組み込んでいる。
*見学可能(完全事前予約制、下記の公式ウェブサイトより)
構想:杉本博司
基本設計・デザイン監修:株式会社新素材研究所
実施設計・監理:株式会社榊田倫之建築設計事務所
施工:鹿島建設株式会社
石工事:株式会社小林石材工業
所在地:神奈川県小田原市江之浦362番地1
休館日:火・水曜日、年末年始および臨時休館日
入館料:3,000円(税別)
URL:www.odawara-af.com(見学の事前予約申込先)
株式会社新素材研究所
URL:https://shinsoken.jp