特別企画

お墓や石について、さまざまな声をお届けします。

作品が誰かを勇気づけ、前向きにできれば、とてもうれしい―望月正幸氏

2022.04.25


できればノミで彫り、

石工としての祖父に近づきたい

――最初のお地蔵さんが2000年の制作で、もう21年前ですね。いままで何点くらいつくりましたか?
望月 退院後にも、褥瘡の治療のために何年も一日中ずっとベッドに寝たきりの時期や、体格が変わって車椅子を新調するのに1年くらいかかったり、そういう自分にとって“暗黒の時代”が5~6年はありますし、彫刻ができていたのは正味10年ちょっとだと思いますが、80~90点はつくっていると思います。動物が多いですが、自分がつくりたいもの、石で見たことがないものをつくるという感じです。

自分のできる範囲で少しずつ、徐々に徐々に石を削っていき、徐々に徐々にカタチにしていきますが、その過程で改めて思うのは、初めて石を彫って、何かをつくった人の気持ちがどんなだったろう、ということです。つくったものを人から笑われたりして、「こんなものをつくって何になるのか」とか、そういうことも考えながらつくっていたのかなと。

そういう意味では、できることならノミで彫りたいという気持ちがあります。電動工具のなかった時代の石工の気持ちを味わってみたい。そのうえで自分がどこまで彫れるのか、表現できるのかを知りたいですし、また祖父に対してもいえることですが、ノミで石を彫ることで初めて共感できることがあり、改めてその凄さがわかるものだと思っています。いまの自分の体では夢のような話ですが。

でも、親父から「最近は中国製品が増えて、お地蔵さんをつくったことがない石屋も増えている」と聞いていて、「何か大事なものが抜けている」と感じていたので、そういう意味でも「つくりたい」という気持ちが強いです。

自分でも「俺は何をしてるんだろう」と思うときがあります。でも、あれこれと思い悩むよりも、まずは自分のつくりたいものをカタチにして「前に進むしか道はない」と思いながらつくっています。それに入院中に「現実を見ろ」「無理だ」といわれたことに対して、「これが現実だ!」といいたい思いもあります(笑)。

――石を彫るときは屋外ですが、外で作業していて大変なことなどはありますか?
望月 事故の影響で自律神経のバランスが崩れ、自分の体は暑くても汗が出ず(かけず)、寒くても鳥肌が立ったりしません。

つまり、体温調節ができないため暑さ・寒さにとても弱く、夏の暑いときは重度の熱中症になりやすく本当に危険です。だから夏場は様子を見ながら、午前中は11時くらいまで、午後は夕方に作業をし、それでも暑い日には外には出ません。また冬はやたらと寒さを感じ、寒さしのぎの運動もできず、手袋もはめられないので手は真っ赤になり、風邪も引きやすいので、最近はほとんど作業をしていません。何だかトカゲ(爬虫類)のようですが(笑)、これも自分の体に残った障害の一つです。


望月正幸氏インタビュー2021年10月2日から10日まで、道の駅・富士川で開催された正幸さんの作品展「GOTTSU(ゴッツ) 石材アート展~あたり前のことの大切さ~」(GOTTSU石材アート展実行委員会主催)の会場風景。各作品には正幸さんの思い(詩)が添えられ、多くの来場者がその作品世界に触れて楽しんだ。「GOTTSU」とは正幸さんの小学生時代からのニックネームで、この作品展は小学校時代の恩師と地元の同級生の協力があって開催された

望月正幸氏インタビュー会場風景

望月正幸氏インタビュー制作風景の映像や愛用のグラインダーなども展示された

望月正幸氏インタビュー十二支を彫った作品