いしずえ

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新素材研究所「茶室 今冥途」

2020.11.11

建築・造園・石垣



茶室 今冥途
Tea Room Imameido
2011年
アメリカ・ニューヨーク

新素材研究所 / 杉本博司+榊田倫之

現代美術作家・杉本博司は茶室の空間をこよなく好む。ガラスの茶室「聞鳥庵(もんどりあん)」は世界中に驚きを与えたが、茶室「今冥途(いまめいど)」はぐっと趣きが違う。杉本が初めて手がけた茶室だという(設計は新素材研究所)。

杉本は「今冥途」の解説のなかで茶人・千利休を引き合いに、こう語っている。
「どこにでもある日常のものをもって、等価、あるいはそれ以上の価値を生み出した利休は、価値を転換・捏造して得た美を客人とともに楽しんだ。アートとはいつの世にも新しい価値を創造する、または捏造するという行為である」

今冥途の水屋口
縦桟の引き戸の手前に京都の鞍馬石を置く

露地と蹲踞の景色
四半敷きに据えた敷瓦と石と苔が、わび・さびの風情を醸す。大都会マンハッタンのビルのなかにつくられた空間であることを強調したい


蹲踞は古寺の基礎石を転用したもの

床の間の景色
沓脱石は水屋口と同じ鞍馬石をスライスしたもの


「今冥途」の文字(杉本博司揮毫)を刻む石は京都・五条大橋の欄干に使用されていたもの


この「今冥途」ではつまり、価値の捏造が至るところに見え隠れしている。ましてや「今冥途」の名は、美術家マルセル・デュシャン(1887―1968)が既製品を用いた自らの作品を指して称した“レディ・メイド”の当て字である。たとえば無骨な框(かまち)がニューヨーク州北部の廃屋(納屋)から拾ってきた古材とは、誰も思うまい。客人はここで茶を喫しながら、杉本による捏造的創造を無意識にも体験しているのである。

なお、マンハッタンのビルのなかにある「今冥途」では月に2回のお茶のお稽古と、年に1~2回の茶会が開かれる。彼の地の人々は虚構的なこの空間に何を見出しているのであろうか。


All photos: (c) Hiroshi Sugimoto / Courtesy of New Material Research Laboratory


*「月刊石材」2019年6月号より転載
内容は同号掲載当時のものです


◇茶室  今冥途
Tea Room  Imameido
所在地:ニューヨーク(アメリカ合衆国)
延床面積:169㎡
施工:Door Four / イシマル
使用石材:京都・五条大橋欄干、蹲踞(寺院基礎石)、京都・鞍馬石

株式会社新素材研究所
https://shinsoken.jp