いしずえ

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天然石割肌モザイク作家 本間洋一「洋上の日の出」

2020.11.11

その他


本間洋一「洋上の日の出」
「洋上の日の出」

(60×50㎝)

天然石割肌モザイク作家
本間洋一



本誌(「月刊石材」)2003年1月号表紙に掲載した作品テーマは「海」で、今回も同様とした。前回は建築の壁面で大理石の板材を大小、形も少し異なる木の葉型に刻んで連ねたもので「木の葉型様式」と名付けている。

今回の「海」は、それとは表現内容と様式を異にしたモザイクである。同年(2003年1月号から12月号まで)における連載の講座記事では作品「ボタン」のスケッチからモザイクへの工程を3ヵ月で追い、5月号表紙に掲載。その表現様式は古代ローマのモザイクから現代もなおゆるぎない評価とともに行なわれている古典様式(一般に「ローマスタイル」と呼ばれている)を更に一歩進め、表現上の幅と深さを高めるため私が探求を続けてきたもので、現在は私個人の呼び方に留まっているが、「新古典様式」として記事中に発表したものである。今回の「海」はこの新古典様式を採用した。

「洋上の日の出」。年頭にふさわしい内容も目指し、初日の出をイメージした次第。これまで見た太平洋上の日の出はおがさわら丸乗船時にいつもスケッチを行なってきた画題でもあり、小笠原2島での私の作品制作は3ヵ所6作品で、制作年代も3回に及んでいるため乗船した回数も数えきれない。

小笠原における私の石の表現は、父島は1ヵ所2作品、母島が2ヵ所4作品でモザイク及びレリーフであるが、ここで特筆させていただく点は、私は「その地の石で、その地に文化を!!」を長年にわたる目標及びテーマとし、大げさに言うならば、未来へ向けての文化運動としての取り組みを目指していることである。実際には道半ばでなかなか進んでいない現況であるが、このことについては後日また述べさせていただきたい。

本間洋一「洋上の日の出」「生命の芽生え」
小笠原診療所天井明かり取りエリア、2009年


前置きが長くなったが、前述の船(おがさわら丸)は毎回ほぼ同じ時間に同じ地点を通るわけで、私は日の出時間をチェックしておきデッキに出る。季節により、またその時の天候で見え方と実感覚はそれぞれまったく異なるわけであり、たとえ同じ所を通過していても同じ風景を見ることはほとんどないであろう。それほどまでに常に変化を繰り返しながら、更にまた無限に変化を連ねていく。とどまること、定まることはない。

しかし、本来、本質は不変である。これは何人も否定し得ない真実であり、地球上のほぼすべてに当てはまると言っても過言ではなく、眼前の様子に気を取られながら右往左往され続けている私たちがここにあるとするならば大いに思いを促される。私たちの力や願いでは変えられない大きな力、姿、働き。これを受けて生きている私たち、私などは小さな存在で、自分の力で生きているつもりになっていても実は大きな力に生かされ、導かれ、コントロールされている。

「海」は私たちの心の働きさえもすべて動かし、支配し続ける。ゆるぎなき必然がここにあり、小刻みに、そして時に激しく大きく変化を繰り返す大自然。眼前の事態が、常にいつ何が起きても不思議でないことは、当然の事態と言えるのではなかろうか。

「海」を画題としたのはこのような思いに導かれてもいるが、もう一つの事態変化、つまり人間がつくり出す変化には戦争、紛争という愚かしいものもあり、考えさせられることが多い。常に姿、形、表情を変え続けながら不動なる本体。「海」はやさしく、あたたかくほほ笑んでくれるだけではない。昨今、現実の世界情勢は、「天気晴朗なれども波高し」とも言えよう。

言葉とは裏腹に、私の小さな心をさらけ出している下手な作品をお許しください。


本間洋一「洋上の日の出」本間洋一「洋上の日の出」
・作品「洋上の日の出」に使用した石
左上から=カーネリアン、レッドメノウ、サンゴ(自然肌)、サンゴ(2種)、大理石、ピンクオパール(2種)、大理石、ピンクカルサイト、大理石(2種)、ピンクカルサイト、大理石、カルサイト、トラバーチン、大理石(4種)、ランドウ鉱、ラピスラズリ(8種)、ソーダライト、ラピスラズリ(2種)、デュモルティライト、ラピスラズリ(2種)、大理石、ブルーメノウ、オニックス(2種)、大理石、グリーンメノウ(2種)、クリソプレーズ、フクサイト、グリーンメノウ、クリソプレーズ、フクサイト、不詳、フクサイト、クリソプレーズ、ガスペイト、アマゾナイト、ガスペイト、不詳、ガスペイト、不詳、不詳、アマゾナイト、不詳、アマゾナイト、アメジスト(5種)、ブルーメノウ(2種)、フクサイト、ブルーメノウ、フクサイト、大理石(3種)、オニックス、大理石(3種)、ニッケルマグネサイト(2種)、不詳、メノウ、大理石、カルセドニー、オパール、大理石(6種)  以上、主な90種



*「月刊石材」2018年1月号より転載
内容は同号掲載当時のものです


本間洋一(ほんま よういち)
東京生まれ。武蔵野美術学校(現美術大学)卒業。大理石モザイクをはじめ、建築において手仕事で石を活かす造形を専業とし、下絵、模型から現場制作に至る全工程を自ら行ない、建築との融合を目指す。