いしずえ

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天然石割肌モザイク作家・本間洋一「カワセミ」(2作目)

2020.11.11

その他


本間洋一「カワセミ」
「カワセミ」

(40×30㎝)

天然石割肌モザイク作家
本間洋一



4月号(「月刊石材」2018年4月号)では、同じ作品タイトルでカワセミの巣立ち直前のようすをテーマに、変化と動きのある表現を目指しながら、充分な結果に至らず残念な思いを抱いた。そのヒナたちが成長し、元気に飛びまわる姿を秋頃にもう一度挑戦させていただきたいとお願いした次第で、結果を充分につかむに至らずとも実りある良い体験と学習の機会を得られ、感謝している。

取材地の野火止用水(東京都小平市)は通年、水量も豊かで、大きくなった鯉をはじめ、オイカワやアブラハヤなど、カワセミが好む小魚が群れをなし、水中を長時間見つめていても飽きることのない別世界を展開している。

春の、これから緑が濃くなる季節からは見え方が変化し、観察しやすい視界も限定されてくるが、目標と手段に合わせ、小魚の動きに気を配りながら辛抱強く待つ気になれば、想像を超える期待以上の展開に出会えることもあり、別世界への誘いとなって時の経つのを忘れることもしばしば。我を忘れての感動にひたる。4月号の続作となるが、その当時に加え新たな疑問や発見に伴う驚き、そのすべてが納得のいく理解にまでは届かずも、底知れぬ魅力を感じた。

空中のカワセミには、水中にいる魚がどのように見えているのだろうか。ジャブリと飛び込んで魚をくわえて水中から飛び出てくる時間が非常に短く、どのような動きでどう捕えるのか。ときに失敗することもあるだろうが、成功率が非常に高いのにも驚かされる。

また、水が澄んでいるときばかりでなく、やや濁っているとき、かなり濁っているときでさえ成功率が高い。さまざまな条件下で彼らには水中の魚がどのように見えているのか。改めてカワセミの頭部を注意して見ると、目の前に白く短い毛が生えている。たぶん、水中に飛び込んだときの水圧の受け具合や、眼前のようすの見え方との間に、明確に大きな関係があるのだろう。私には驚きと解らないことの連続であった。

かつて、どこかの公園で見た、観察しやすいようにガラスの内側に棲むカワセミのようすがいま、脳裏に甦ってくる。保護されたカワセミと、野生の姿とを交互に思い浮かべながら、想像の世界にひたった。

今回は、水面上をスレスレに飛ぶ姿を描いてみたく、初めての試みであったが、平面表現を基盤にして、見る角度によって形が変化し視界に入ってくる半立体に見える要素を加え、視点のわずかな変化にも各部分の視界への入り方に変化を導き、フォルム自体が動き出してくる(動いて見える)よう表現を工夫した。

立体、半立体、平面――美術ではこれらを明確に区別して取り組むのが常道であろう。しかし今作では、正面からは飛んでいるカワセミの姿、右側からは近づいてくる姿、左側からは遠ざかっていく姿と、形をより明確に! つまり動いているフォルムとしての表現に力点を置いてみた。不消化な点はこれからの課題としてご覧いただけたら有り難い。


本間洋一「カワセミ」
本間洋一「カワセミ」カワセミの体を半立体で構成することで、水面スレスレを颯爽と飛ぶカワセミの躍動感を表現。天然石の他に、くちばしや翼など、部分的に天然の貝を使用し、水や陽光の反射、あるいはあたかもいま水中から飛び出したばかりかのような濡れ色を表現している



*「月刊石材」2018年11月号より転載
内容は同号掲載当時のものです


本間洋一(ほんま よういち)
東京生まれ。武蔵野美術学校(現美術大学)卒業。大理石モザイクをはじめ、建築において手仕事で石を活かす造形を専業とし、下絵、模型から現場制作に至る全工程を自ら行ない、建築との融合を目指す。