いしずえ

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福島県南部で逢える 空飛ぶ狛犬

2021.02.15

その他

 福島県南部に点在する「空飛ぶ狛犬」巡りが愛好家の間で密かなブームになっています。雲の上を飛び跳ねるようなポーズでつくられた、通称「飛び獅子型」と呼ばれる狛犬のことで、同県福島市出身の作家・音楽家で狛犬研究家として狛犬専門の情報サイト『狛犬ネット』を主宰するたくきよしみつ氏によると、こうした狛犬が見られるのは全国的にも珍しく、福島県南部だけとのこと。これまでに白河市や石川町などで16対の飛び獅子型が確認されているそうです。

 その台座に刻まれた制作年や作風などを詳しく調べていくと、江戸時代に当地へ移り住んだとされる高遠石工、小松利平(布弘)という人物に行き当たります。

古殿八幡神社の狛犬(古殿町、昭和7年、小林和平作)


 高遠石工(高遠石切)とは、江戸時代に全国へ旅稼ぎに出ていた信州・高遠領出身の石工衆のことで、知る人ぞ知る天才仏師・守屋貞治を世に輩出するなど彼らの腕のよさはいまなお高く評価されています。

 その卓越したセンスと技術が利平から弟子の小松寅吉(布孝)へ、さらにその一番弟子である小林和平らに受け継がれました。同県南部には、先の狛犬をはじめ、個性豊かなさまざまな石造物が見られ、なかには文化財に指定されてもおかしくないものもあります。その多くはこの3人の石工たちによってつくられたもので、噂を聞きつけた狛犬ファンたちが全国から集まってくるそうです。

 

須賀川牡丹園(須賀川市)の植込みで睨みをきかせる狛犬と、
園内の天宇受売命と鶏の石像。利平の弟子、小松寅吉作

 
 これら貴重な石造物を地域興しに生かそうと、野出島地域活性化プロジェクト(白河市)では、狛犬巡りのバスツアーや講演会を2000年から開いてきました。

 また2014年、寅吉と和平の2人の石工にスポットを当てたドキュメンタリー映画『狛犬の棲む里』(監督・撮影=桂俊太郎)が自主制作で完成し、各地で上映されました。桂監督は2015年1月、惜しくも他界されましたが、『石を架ける~石橋文化を築いた人びと~』など石シリーズ三部作を手掛けた監督としても知られています。

 

八槻都都古和気神社の狛犬(棚倉町、天保11年)。作者は不明だが、その作風や制作年代などから、江戸時代に旅稼ぎ先の福島に移り住んだとされる高遠石工・小松利平(布弘)の作といわれている。脱藩者である利平は、石切目付の取り締まりから逃れるため、作品に自分の名を刻まなかったとされる。親獅子の脚元で何かをねだるように腰を浮かせる子獅子が何とも愛らしい


 福島県はご存知のとおり、日本を代表する石材産地です。福島県石材事業協同組合(藤井宗明理事長)では、国産材の需要向上と産地の活性化を図るため、同組合員が採掘する丁場見学を呼びかけています。東日本大震災に伴う福島第一原発事故の影響により一部石種で休止を余儀なくされた採石場もありましたが、現在は通常どおり毎日元気に操業を続けています。

 福島産地を応援したい石材店の皆さん、仕事や社員研修、あるいは商談等で福島産地の採石場や工場を見学・案内する際に、これら狛犬や石造物を一緒に訪ねてみてはいかがでしょうか。その魅力に触れれば、福島の石がますます身近なものに感じられ、愛着が沸いてくることでしょう。

鹿島神社の狛犬(白河市、明治36年)と、近くの坂本観音(勝善神社)にある石像馬(雌雄2体あるうちの雌馬)。ともに小松寅吉作。石像馬は2体とも東日本大震災で脚が折れたため、腹部下に石材を入れて補強し修復された

 


正面扉に龍や虎、兎、鶏などが彫られた、羽黒神社(白河市借宿)参道の石柵と、扉裏側の狛犬(明治26年、小松寅吉作)。石柵のなかに白河楽翁公(松平定信の隠居後の名前)が詠んだ歌碑(明治30年、井亀泉刻)がある

 

※『月刊石材』2016年6月号より、一部書き直して掲載