特別企画
お墓や石について、さまざまな声をお届けします。
常に新しい感動を求めて石と向かい合う―彫刻家・画家 武藤順九
日本初の“武藤順九彫刻園”
――東京・昭島の「昭島・昭和の森 武藤順九彫刻園」を拝見しました。ゆたかな森と先生の作品とがつくる空間に感動しました。
武藤 すごくいいだろう?(笑)。あの「彫刻園」は日本初の彫刻公園です。なぜ日本で初めてかというと、切り口は二つあります。
一つは、彫刻園の構成のあり方です。
“昭和の森”というのは自然環境の保護が目的で、住宅や施設などをつくることができません。そういう森は、実は日本にはいっぱいあって、でも経済的効果がなければ維持していくのも大変で、森がジャングルのように荒れたり、朽ちていくことも多いそうです。“昭和の森”自体は、昭和飛行機工業㈱(東京都昭島市)が保有する広大な土地の一部で、同社が大事に手入れして森を守っていますが、ただ単に森を整備するだけではなく、「もっと魅力的な森にしたい」という彼らの将来に向けたコンセプトのなかに、「子どもや大人がアートを身近に楽しめる森をつくりたい」という夢があり、今回の「彫刻園」のプロジェクトが生まれました。
縁があって私たちが出会い、「彫刻を森のなかに置いて皆さんに楽しんでもらいましょう」と動き始めたわけですが、そこには当然、森を守るという視点で昭島市の協力も必要になります。つまり行政と、昭和飛行機工業などの民間企業・団体、そしてそこにアートが加わり、官民+アーティストが協力して彫刻公園をつくり、運営し、文化を発信するという日本で初めてのプロジェクトが生まれたのです。まだオープンしたばかりですが、これが成功すれば、いま地方の活性化が課題の一つであり、いい意味で最初のモデルになるはずです。
昭島・昭和の森 武藤順九彫刻園(東京都昭島市)
自然ゆたかな森のなかに作品を置き、うつろう木洩れ日のなかで四季折々に表情を変える武藤氏の作品9点を鑑賞できる。写真は作品「MALE AND FEMALE」(2011年、イタリア産大理石)
*2019年6月、編集部撮影
大理石のメンテナンス技術を日本の石文化のために伝えたい
そしてもう一つ大事なことは、これも日本で初めてですが、森のなかに大理石の彫刻を半永久的に設置するわけですから、そのメンテナンスの仕組みづくりが必要になりました。「彫刻園」として、森のなかに彫刻を置く一番のネックは樹木です。木は呼吸しながら樹液を出すので、それが作品に付着し、そこに汚れが付き、しかも日本の場合は大気汚染もあるから、どんどん汚染されていきます。これはヨーロッパでも同じで、だから普通は誰も森のなかに彫刻を置きたがらないのです。
では、「彫刻園」ではどうするか。大理石の彫刻にとっての悪条件がそろうなかで、いかにして作品を維持していくか――という視点での研究プロジェクトが、これも官民協同で実はもう始まっています。
これは日本人の価値観や美意識といえますが、日本の石文化はどちらかというと、わざわざ苔(コケ)を生やしたり、朽ちていっていいという考えがありますね。それは日本人の感性で、日本における石に対する姿勢の一つです。でもヨーロッパでは違い、いかにメンテナンスしていくかを重視しています。石のお掃除ですね。自宅を掃除するということは、まさに大理石を掃除するのと一緒だから、そこにクリーニングやメンテナンスの技術が生まれる。残念ながら日本にはそれがなく、イタリアが世界一の技術、ノウハウを持っています。
それでまず、「彫刻園」では第一弾としてイタリアから優秀な職人を呼び、設置前の作品にコーティングを施し、また普段は当然、野鳥のフンなども付着しますので、そういう汚れを石に染み込ませないためのメンテナンス方法などを教わりました。これはイタリア側にもチームを組んでもらって、今後も毎年一度はクリーニング期間を設け、来日してもらうことになっています。
そしてこれもまた重要なことですが、私たちはそこで得る成果を自分たちだけのノウハウにするのではなく、日本の石材業界の方とも共有したいと考えています。イタリアのプロが教える大理石クリーニング・メンテナンスのワークショップなどを開催し、業界の皆さんにも参加していただきたいと考えています。これが実現すれば、今後の日本の石文化が前進するためのとても大事な第一歩になるはずですから、『月刊石材』もお手伝いくださいよ!
――ぜひ協力させていただきます!
作品「CIRCLE WIND(風の環)-PAX2003-」
(2011年、イタリア産大理石)
作品「CIRCLE WIND(風の環)」
(2011年、イタリア産大理石)
*上2点:昭島・昭和の森 武藤順九彫刻園にて、2019年6月、編集部撮影
◇昭島・昭和の森 武藤順九彫刻園ウェブサイト