特別企画

お墓や石について、さまざまな声をお届けします。

常に新しい感動を求めて石と向かい合う―彫刻家・画家 武藤順九

2020.11.11

押し付けではない鑑賞を

――「彫刻園」では四季はもちろん、朝夕など時間の経過によっても作品の表情や景色が変わるのが、とてもいいですね。
武藤 園内の通路やその周辺の植栽などは新たに整備しましたが、年月の経過とともに、これからどんどんよくなりますよ。木が茂って、花が咲いて、また紅葉や雪の景色もすばらしいでしょうね。だから皆さんには「一度見て終わりではなく、一年を通じて見に来てください。四季折々に楽しめますよ」と話しています。

それと普通のミュージアムは、いつも同じライティングで、同じ状況のなかに、同じ角度で彫刻が置かれていますよね。私はあれを「押し付けの鑑賞」といっていますが、「彫刻園」では照明を使わず、自然の木洩れ日のなかで作品を鑑賞できます。作品にはそれぞれ芯棒(しんぼう)を入れていますが、固定せずに360度回転させられるので、角度を変えて見ることができ、作品のかたちも表情も変わる。頑丈にフィックスすると、地震のときなどに折れたりして危ないから、わざと動くようにしているんです。

――実際に来園者が作品を自由に回転させてもいいんですか!?
武藤 いいの、いいの!(笑)。また回して戻せばいいんだから。子どもたちが楽しんで触ってもいい。手あかがついても、そのためにしっかりメンテナンスするんだからね(笑)。

――かたちが無限に広がりますね。先生はかたちに対するこだわりなどがありますか?
武藤 こだわりというか、私の場合はメビウスの環(わ)をモチーフにした作品『風の環(CIRCLE WIND)』シリーズがありますが、でもそれも1点ずつ、すべてかたちは違います。だから、あんまりこだわりはないかな。

先にも話しましたが、「生命(いのち)」のイメージから入るから、「こういう生命もあるな」と思えば、かたちは無限ですね。それに一つひとつの石からもイメージが無限に伝わってくる。だから人の展覧会を見に行く必要がない。なぜなら真似する必要がないから(笑)。むしろ、いまはずい分と真似されているけど、「どうぞどうぞ真似してください」と。それでいい作品ができれば、すばらしいことですからね。

「彫刻園」でも、最初の「一」を始めるのは大変なことなんですよ。みんなもやりたいけど、リスクを負いたくないから、なかなかできない。でもこれがうまくいけば、もしかすると二番手が出てきて、それは思うようにやらせてあげればいい。「オレが先にやったんだ」ではなくて、私たちの方法を参考にしてもらって、それで世のなかの人々みんなが気持ちよくなれればいい。それが私のコンセプトでもあるんです。

大きな時間の流れのなかで、みんなはちゃんとわかってくれます。「これは『彫刻園』から始まったことだ」と。だからメンテナンスも含め、「あそこから日本の石文化が変わった」といわれるくらいのことをしっかりやろうと、行政も含めてみんなで話し合ったんです。

――設置した作品は9点で、グランドオープンは6月(June=順)9(九)日ですね(笑)。
武藤 そうそう、私の名前にちなんでな(笑)。みんなもそうやって楽しみながら考えて、でも本当によくやっていただきました。

園の整備を担当した造園屋さんも、外構屋さんも、関わっていただいた皆さんが心を一つにして、本当にすばらしい「彫刻園」にしていただいた。この森の空間は世界に誇れるもので、いままで私が関わった仕事のなかでも最高の仕事の一つといえます。今後は世界中から来園者があると思いますが、必ず感動してもらえるはずですよ。

2020年に宮城県石巻市に完成予定の東日本大震災の復興祈念公園(仮称)内に設置される予定の慰霊モニュメント制作風景。
作品名は「CIRCLE WIND(風の環)-絆-」(東日本大震災3.11慰霊モニュメント)で、こちらも官民一体のプロジェクト


作品「CIRCLE WIND(風の環)-N.Y.9.11慰霊モニュメント-」
(2011年、イタリア産大理石)

アメリカ同時多発テロの慰霊モニュメント。
ニューヨーク市のジャパン・ソサエティーでプレビュー展示した



死ぬまで描き続けている絵があってもいい

――「自分で感動できない作品は世に出せない」とのお話がありましたが、作家でも職人の世界でも一つの作品がそれで完成かどうかという話をよく聞きます。皆さん「完成はない。満足できない」といわれることが多いですね。
武藤 そうですね。だから、自分で納得できるまで、私は作品を発表しません。たとえば、いまアトリエに1993年に最初にサインをした絵があります。もう25年も前ですね。それはいまもずっと描き続けています。うん、もう完成かなと思っても、またすぐに壊すんだな。

つまり、私という人間はいまの自分であり、明日の自分はわからないということだよ。だから自分が死ぬまで描き続けている絵があってもいい。一生をかけて変化していく自分が、これまでどういう変化をたどってきたのかを、その作品を通して確認するわけだな。

しかし、絵に比べると、彫刻は一発勝負だからそうはいかない。それでも私は彫刻家として、自分でゾクッとするものをつくり続けるためにその瞬間を追い求めている。

だからこそ、常に新しい感動を求めて石と向かい合う。そういうことだな。

――貴重なお話をありがとうございました。緊張感にしびれました。



写真提供:一般社団法人「風の環」
出典:「月刊石材」2019年7月号
聞き手:「月刊石材」編集部 安田 寛


◇公式サイト「武藤順九の宇宙」
https://www.junkyu.jp/

◇武藤順九氏のインタビュー(当サイト内)
「東日本大震災鎮魂と追悼のモニュメント―彫刻家・画家 武藤順九」