いしずえ

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須田郡司~聖なる石への旅「ゴールデン・ロック」(ミャンマー)

2020.11.11

その他

 ゴールデン・ロック(ミャンマー)写真1


 ミャンマーの首都ヤンゴンの北東、モン州の郊外に石の聖地があります。金色に輝く大きな巨石は「チャイティーヨー・パコダ」と呼ばれています(写真1)。一般的には「ゴールデン・ロック」の通称で知られる、仏教の巡礼地です。

 2012年3月、私は初めてゴールデン・ロックを巡礼しました。ここを訪ねるには、ややハードな旅を覚悟しなければなりません。ヤンゴンからバスで6時間でパゴーへ、そこからさらにバスに乗り換え2時間、キンプンの村から改造したトラックバスの荷台に40人くらいで詰め込まれ、急坂を上がること45分(写真2)。そこから徒歩、または担架に乗って1時間でようやく山頂へたどり着きます(写真3)。標高1,000メートルもの山頂には外国人向けの高級ホテル、地元の巡礼宿、おみやげ屋さんが立ち並び、門前町のような賑わいがあります。

巡礼者の乗せるトラックバス写真2

担架に乗って上がる外国人観光客写真3


 お寺の正面入り口からは靴を脱いで裸足にならなくてはなりません(写真4)。最初にある寺院に入ると、何やら不可思議な絵が目に飛び込んできました。何と、ゴールデン・ロックが岩から浮いた状態で描かれているのです(写真5)。お坊さんの説明によれば、約2000年前のゴールデン・ロックは岩から浮いていて、その隙間を鶏が走っていたそうです。その後、1000年ほど経つとやや落ちてきて、今は岩の上に乗り、落ちそうで落ちないバランスを保っているとか。

ゴールデンロックの入口の巡礼者写真4

浮いたゴールデン・ロックの絵写真5


 やがて、ゴールデン・ロックの姿が見えてきました(写真6)。岩の周囲にはたくさんの巡礼者がお供えをして祈りを捧げ、岩を見つめては瞑想をしています。ここを3回巡礼するとお金持ちになれると信じられ、ヤンゴンからたくさんの人々が巡礼に来ているそうです。

ゴールデン・ロック遠景写真6


 ゴールデン・ロックの前に供えられた透明な賽銭箱には、たくさんの紙幣が入っています。信仰の篤さがわかります(写真7)。ゴールデン・ロックの周囲には、岩に向かって祈るスペースが何ヵ所かあり、特に女性の方々はここで祈ります(写真8)。

お賽銭箱写真7

ゴールデン・ロックを祈る人々写真8


 高さ8メートル、胴回り24メートルというこの巨石は、いまにも落ちそうですが、決して落ちないと言われています。その理由は、巨石の上に建てられた高さ7メートルの仏塔(パゴダ)に納められたブッダの聖髪の力によると信じられています。

 ゴールデン・ロックに近づいて、実際に触れることができるのは男性のみで、私も直接石に触れてみました。金色に輝く岩肌は、どこか生暖かい感じがしました。それは、多くの人々の篤い思いや祈りが岩に集まっているからかも知れません(写真9)

ゴールデン・ロック に金箔を貼る僧侶写真9


 ゴールデン・ロックは、名前のように金色に輝いています。これは、巡礼者の寄付によって貼り付けられた金箔(5センチ角ほど)に覆われているからです。彼らは、金箔を購入し思い思いに岩に貼ってゆきます(写真10)。巨石全体が金色に輝いているのは、数年に一度、竹の足場を組んで岩の全体に金箔の貼り直しがされるからです。岩と岩の隙間を覗くと、竹串を刺したミャンマー紙幣が供えてあります(写真11)。よく見ると、驚くことにわずかに振動しています。ゴールデン・ロックは、実際に揺れている奇跡の巨石なのです。

金箔を貼る写真10

竹串の紙幣写真11


 やがて、太陽が沈む頃になるとゴールデン・ロックはライトアップされます。すると、さらに神々しいくらいに金色に輝きはじめます(写真12)。24時間、この聖なる石の回りには、祈る人々の姿が絶えません。世界中を巡っても、これほど多くの人々に終日見守られている石の聖地は珍しいものです。

夜のゴールデン・ロック写真12

 

※『月刊石材』2014年4月号より転載

 

◎All photos: (c) Gunji Suda

◎ 須田 郡司プロフィール
1962年、群馬県生まれ。島根県出雲市在住。巨石ハンター・フォトグラファー。日本国内や世界50カ国以上を訪ね、聖なる石や巨石を撮影。「石の語りべ」として全国を廻り、その魅力を伝えている。写真集『日本の巨石~イワクラの世界』(星雲社)、『日本石巡礼』、『世界石巡礼』(ともに日本経済新聞出版社)、『日本の聖なる石を訪ねて』(祥伝社)など。

◎須田郡司ツイッター
https://twitter.com/voiceofstone