いしずえ

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天然石割肌モザイク作家・本間洋一「櫻下の月」

2020.11.11

その他


本間洋一「櫻下の月」
「櫻下の月」

(35×41㎝)

天然石割肌モザイク作家
本間洋一



列島各地それぞれ様子を異にしながらも春の訪れです。本誌がお手元に届く頃、東京では開花の話題が必ず登場するでしょう。そこで「櫻」を選んだ次第。今月号(「月刊石材」2018年3月号)のみ2作品(「櫻下の月」「山櫻」)をお許しください。

作品「櫻下の月」(トップ写真)
ワクワクする心とは逆に、吹く風に首をすくめながら丸くふくらんではじけ出す寸前の姿に胸のトキメキを抱きつつ、毎年訪れる近くの櫻を見に出かけた。

紫がかったはじけそうな姿が大好きで、まさにドキドキ出会いの瞬間、咲きはじめの姿を想像。1週間前とは異なる表情に大満足です。さっきまで冷たく感じた風もやみ、暖かささえ感じる心地よさに何とも言えぬ満たされる思い!

高齢の身となった私だからでしょうか。日頃親しくしていただいている先輩がよくおっしゃっておられた言葉、「この姿、また来年も見られるだろうか!!」と、「だんだん難しくなるんだろうね!!」を思い出します。以前は他人事のようでもあったのにしみじみとわかる気持ちになれるのも不思議です。明日の我が身を思い、今を充実させたいものだと考えながら、思いのほか寒さも感じられず、気分も上々。芽吹き出した道ばたの雑草にも言葉をかけたくなる気分でやや傾斜のある明るい道を通りながら、ここらでちょっと一休みでもと腰を下ろし、ゴロリ。最高の気分。咲いている花はまだ少ないのに、その初々しさ、新鮮さに大満足で「スケッチしようか」「俳句でも」と思っている間にちょっとのつもりが眠ってしまったようです。

静寂から暗さに替わりかけ、どのくらいの時間を過ごしていたのかと気にし始めた時、ちょうど地上が花明かりとは異なる別の明るさ、月明かりに替わり始め、また感激。周辺の色合いも絵にしたい気持ちとともに見ているつもりでも、何色と言えるのか、それがどんどんゆっくりと変化していき、またとない絶景です。櫻を描きたい気持ちが周辺の景色へと、そして月へと横すべり、気づいた時には予定だにしていなかったモザイクの下図へと向かっていました。

次第に月は櫻の陰にかくれ、見えている空には星が輝き、まだ蛍の季節ではないのに蛍と星が重なるように見えてきたり、幸せにひたった一瞬でもありました。


作品「山櫻」
ソメイヨシノよりちょっと遅れての開花。周辺の草など、あたり一面の緑が濃くなりつつあるこの季節での山櫻でしょうか。葉の紫がかった濃い赤はツヤがあり、新鮮で魅力的。木も周辺に雑木が多いせいか、ほっそりとした枝を遠慮がちに伸ばし、まばらに咲き出した花と葉のコントラストもよく、蜂の姿にも出会えてスケッチを! 沢山かたまって咲くソメイヨシノと異なり、やや地味な感じもするが、無駄のない引き締まったかたちの上品さに導かれ、夢中にさせられた次第。


山櫻

「山櫻」
(28×44㎝)


この制作における新たな探求と挑戦は、絵画性を重んじながら絵画では成し得ない表現の可能性に向かうことでありました。それは自然石の割肌の持つ特性をもとに石の色と肌の特質を更に拡大して多様な表情を引き出し、連続性を高めることによって造形表現としての新たな可能性と価値の創出に向かうことでした。

具体的には多様な表情を意図的に創り出し、強弱と変化の効果を導き、視線を一時停止させて見つめていると画面が自動的に動き出すような感覚(正しくは錯覚なのであろうが)を見る者に感じさせる(導き出す)ことや、更にしばし見つめていると画面が動いて見えてくる感覚に加えて、新たに音が聞こえてきたりする感覚表現をも可能にした点にあります。

この実態についての立証や展示による証明は写真では不可能な点があり、一定の表情を固定した表現として立証することに対し、どなたに対しても正しく実感していただくという、新たな価値観の表現として明言できるように、これからも研究を行なっていく心です。

今回発表の2点(作品「山櫻」)ではジーッとほぼ1分間近く見つめていただくと、描かれた蜂の羽音が聞こえてくる!! 山櫻の花や枝がかすかではあるが揺れ動いているかのように見えてくるなど、新しい価値に向かっての私の挑戦の一部は、今更にまた始まったばかりでもあります。乞う御期待を!!



*「月刊石材」2018年3月号より転載
内容は同号掲載当時のものです


本間洋一(ほんま よういち)
東京生まれ。武蔵野美術学校(現美術大学)卒業。大理石モザイクをはじめ、建築において手仕事で石を活かす造形を専業とし、下絵、模型から現場制作に至る全工程を自ら行ない、建築との融合を目指す。