いしずえ

お墓や石に関するさまざまな注目情報を発信します。

天然石割肌モザイク作家・本間洋一「雨(あじさい)」

2020.11.11

その他


本間洋一「雨(あじさい)」
「雨(あじさい)」

(36×61㎝)

天然石割肌モザイク作家
本間洋一



本誌1年間(「月刊石材」2018年1月号~12月号)の表紙に作品を掲載する機会をいただき、「読者の皆様に親しんでいただける内容は」と課題を抱き、立ち止まっているおのれに戸惑いながら、「そうだ! 日本には美しい四季の変化があり、多様な捉え方が可能である」と胸を熱くした次第である。

ただ、列島は南北に長く、東西にも密度の高い特色ある変化に包まれ、同じ表情が見られるものであっても、季節の特定にはばらつきがあり、どの地の方にも「今月号の表紙、この地と外れている!」と言われることは否めないが、日本は豊かな風土であるがゆえに変化に富んでいることを、これもまた深い味わいの一つとして受け止めていただけたら幸いである。

世界中で季節の変化が導いてくれる美しさ、感動の違いはそれぞれであろう。そのなかで日本は最も多様な恵みを受けている風土の国ではなかろうか。この特質を、もし月刊誌で表現できたら、これもまた一つの価値であり、このような恵みを受けながら、一生、生き続けられることは、なんと言う幸せ! ありがたいことでありましょうか。

芸術は美しく無限に展開されていく質のものや、深く引き寄せられ、おのれ自体の存在さえ忘れさせてくれるものなど多様であるが、自然が私たちに語りかけてくれる言葉もまた豊かで、限りないものと感じている。

また、芸術性や高い美しさを求めて人間がつくっていくものと、自然が生み出し、私たちに示してくれる美しさには、特質に大きな違いのあることも、いま感じ、思っているところである。人の創り出す美しさは、作者の表現意図と力によって導かれ、結果が固定される特質を持つが、自然が育む姿、産物は生命の法則に導かれ、接する状況や事態とその変化に対しても無限に対応し、限りなく新たな表情をつくり出していくなど、大きな魅力をも秘めているとさえ言えるのではないだろうか。

さらにそれらの要素は、置かれている環境等によっても、無限に変化を展開させ続けるため、その刹那、刹那において、私たちに新たな発見を限りなく与え続けてくれる。そして、そこからまた新たな世界の展開と発見、予感、予測へと導いてくれる!

なんと言う素晴らしい価値であると言えましょう。いま、目の前にあるつぼみが、明日には花開き、花が散ると実が姿を現わし、日々大きくふくらんで色模様をも変化させたのち、美味しい果実として味わわせてくれる! このようなことは、日常の何でもないこととして、私たち皆が接している世界であるが、そのたったいま、この瞬間の世界から、明日への可能性や新たな夢まで与え、想像させてくれるのだから、改めて考えると、すごいことだと思う。

私たちが日常に接しているその多くが、これらの特質を持ち、接し方、感じ方、考え方、受け止め方によっては、限りない可能性さえも想像させ、新しい生命、価値の世界へと導いてくれる。新しい発見に出会い、新たな価値を受けているおのれに感謝です。

さて、梅雨の季節。本当は私はこの季節がキライです。

それは、うっとうしさに動きが妨げられる点と、使用している素材や道具類に対する守りの気配りに神経を奪われるなど、日常の活動に負の力を受けやすいことなどに対する思いからですが、でも待てよ!! 勝手な感覚のみによって生きるにあらずとも言えるのではなかろうか。一歩踏み込んで思えば、世に負の働きあれば、必ずやその逆の、何か良いことが、そこに存在しているのではないだろうか。

――ある! それも沢山に!! それらのすべてによって私たちは日々生かされている存在であることにも気付き、反省と共に、今回はそんな思いを重ね合わせて、普段ほとんど画題とすることのないテーマと向き合って、ささやかな挑戦を試みた次第でもあります。

雨は花を濡らし、枝葉を濡らし、風が吹き、花はただぼんやりと色も混ざり合って形さえはっきりとは見えません。このような題材を選んだのも今回が初めてであり、満足に至る結果には届かずであったにしろ、雨のなかでのスケッチからは、全身に雨水がしみ込んでくる感触、雨と風の混じり合った音をはじめ、通常体験することのない貴重な実感も得られました。

今後も様々な体験を目指し、新たな感動と出会えたらと願っています。


本間洋一「雨(あじさい)」本間洋一「雨(あじさい)」本間洋一「雨(あじさい)」
・使用した石
作品「洋上の日の出」および「再会のゴン」で使用した石と同種の石の他、本間氏が自ら採取した石も含む。同じ石でも表現によりまったく印象が変わる。本間氏は各作品に必ず、使用した石の見本をつける。。



*「月刊石材」2018年6月号より転載
内容は同号掲載当時のものです


本間洋一(ほんま よういち)
東京生まれ。武蔵野美術学校(現美術大学)卒業。大理石モザイクをはじめ、建築において手仕事で石を活かす造形を専業とし、下絵、模型から現場制作に至る全工程を自ら行ない、建築との融合を目指す。