いしずえ
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天然石割肌モザイク作家・本間洋一「サクランボを喰べる鳥」
「サクランボを喰べる鳥」
(34×39.5㎝)
天然石割肌モザイク作家
本間洋一
幼少の頃から一人遊びで育った私は、草花や小動物をはじめ、河川敷や森に住む動物達、水中に住む生物、とりわけ魚達とは、時に一体とさえ思える感覚で毎日を送っていた。この表紙・連載企画に鳥や動植物、また太陽や月、星などの自然の象徴ともいえる存在が多いことは、私自身がそれらと共に生き、生かされているというそのままの姿、思いを中心としているためであり、お許しください。
我が家300年の歴史は過去帳に記されているが、私は新潟県の旧川東村で幼少期から高校までを過ごした。この地を流れる加治川に転がっていた石との出会いによって、「天然石割肌によるモザイク」へと導かれたものと思う。この目標を明確に抱き60年となる。
石は質感、用途をはじめ、多種多様であるが、色調と材質感重視のモザイクにこれほどの豊かな素材を与えてもらったことも幸運であった。しかしこの川も状況が変わったせいか、石がドロをかぶって材質を見分けるのも困難となった今、以前に得た素材が私には宝物となっている。
今月号に登場するサクランボの樹は、今から30年前、建築のモザイク制作に通っていた現場近くの花屋さんから鉢植えを買ったもので、毎年少しずつ大きくなり、今ではたくさんの実をつける。この実を食べに訪れる鳥達を隠れて描いてきたが、小さな鉢には限界を感じ、作業小屋に移して木箱に植え替え、現在に至っている。この作業小屋でモザイクを制作しているのであるが、サクランボが赤く色づくと、ヒヨドリをはじめ、多くの野鳥が訪れ、ギャオギャオと大変な賑わいとなる。
私は、鳥達の動きによってとどまることなく美しく変化する空間に、強弱と連続性を持たせた造形空間を描き出したく、この季節をチャンスに観察とスケッチを繰り返し行なってきたのである。しかし、捉え方と表現が難しく、なかなか思うようには進んでいない。期待と共に気持ちの高まりを感じ出すと、あらかじめちょっと離れたところに陣取り、鳥達の訪れを待つのであるが、これがまた予測どおりにはならず、待たされたり、思わぬ発見をしたりの連続であった。
鳥達は皆正直で、自分の食べたい熟した赤い実を食べ終えると去って行き、また赤い実を見つけると寄って来る……この繰り返しである。私は彼らが実をついばむ瞬間や、そこへ向けての動作、姿を捉えたいのであり、どのようにして感動的な出会い、発見、表現へとおのれを導けるか、葛藤はこれからも続いていくのであろう。
このような道を辿りながら、「サクランボを喰べる鳥」の探求も、この作品で何作目かと続いてはいるが、目指す課題は増すばかりである。
そんななかでも、今年は新たなる発見や感動! 更なる期待にもいくつか出会うことができた。創作の分野で生き抜こうとする者はほとんど皆、強い探求心と共に旺盛な好奇心を持ち合わせていることが当然必要なことでもあろうが、それに偶然の恵みが重なったり、予期せぬ喜びに出会うこともまた嬉しいことである。
木箱に植え替えたサクランボについて触れたが、ここ数年は放置していたせいか、根が大地に伸びて、幹も枝も急速に伸び出し、作業スペースの上にも枝を伸ばし実をつけてくれた。その真下で作品の制作を行なっている私には、姿は見えなくても鳥達の動きや姿が眼前のことのように実感でき、しかも何を話し合っているのやら、なんて変化とニュアンスに富んだ対話なのであろう!! あたかも元気な学童達の賑やかな声とでもいいたくなる楽しげな会話を聞かせてくれた。それはいつも聞きなれている鳥の声とはあまりにも違いすぎる豊かさで、明らかに何かを話しているのである。
童心に押し戻された私は、その体験を大いに生かし、より豊かな楽しさを感じていただけるモザイクの創作に心を燃やした。そして、時に鳥となって空飛ぶおのれを想像しているのである。
*「月刊石材」2018年7月号より転載
内容は同号掲載当時のものです
◇本間洋一(ほんま よういち)
東京生まれ。武蔵野美術学校(現美術大学)卒業。大理石モザイクをはじめ、建築において手仕事で石を活かす造形を専業とし、下絵、模型から現場制作に至る全工程を自ら行ない、建築との融合を目指す。