いしずえ

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天然石割肌モザイク作家・本間洋一「休息する鵜」

2020.11.11

その他


本間洋一「休息する鵜」
「休息する鵜」

(61×138㎝、取材地:多摩湖)

天然石割肌モザイク作家
本間洋一



東京に来て間もない頃より多摩湖にはよく通った。

自然が好きで、絵の題材も動植物を中心としているが、多摩湖ではなぜか土手の上に立っただけでもホーッとする。また周辺の森や林、起伏のある地形とそこに生えている草木等、皆が安らぎを与えてくれた。そこに立ち、目標も予定も立てずに気の向くまま、足の向くままの行動も大好きで、その時々の出会い、ふれ合いのなかで、様々な発見や驚き、更なる興味へと導かれていく自らを楽しんでいた。

「休息する鵜(う)」を題材に、作品を制作したいと以前から心してチャンスを狙っていたので、多摩湖を訪れる時は、いつも双眼鏡を持参し、その機会を求めていたのであるが、土手側から中心部を望み、前方100メートルくらい離れていたであろうか、湖の中央部方向に小さな浮島が見え、まさに鵜の群れが休息していた。水量の多いとき、この浮島は水中に没していて普段はほとんど見ることができず、水位が下がってくると姿を現わす訳であるが、湖の管理者がボートの座礁を防ぐためか、島のほぼ中央部に1本の棒が立てられている。鵜は集団で休息する時、鷹などの猛禽類から仲間を守るために一羽が必ず見張り役を務めるが、この時はその1本の棒を利用していたのである。

棒は目線を高くでき、見張りやすいのであろう。棒にとまった鵜は風上に体を向け、この日は風が強かったためか羽を広げ、小刻みに羽や体を揺らしながら見張り役を務めている姿が、特に私には美しい姿として感動的であった。

この見張りの鵜を構図の中心に据えて、浮島上に三々五々点在する鵜たち。この表現では15羽で構成しているが、実際にはもう少し多かったと思う。この集団に混ざり、カラスも多く見られ、色や体形など類似点に惑わされない明確な鵜独特の美しさを表現したく、私が感じ取った鵜の体形上の特質を個体特質ギリギリまで追い込んだ表現を探求した次第である(具体的には首の長さや形、体形上のバランス、他である)。鵜を知り尽くしておられる方には「鵜らしくない!」との言葉も聞かれるのではなかろうかと思われる限界をも目指しての試みとしてご覧いただきたく、私の挑戦をお許しください。

休息する鵜たちは一見静止しているように見えても、全体がそれぞれ同じような条件下に置かれながら、生き生きと躍動する群像の姿に表現してみたかったのである。

このような息を詰めての緊張のなか、時を刻み、時間の長さはわからずとも、気がつけば時は黄昏へと向かい、前方に月が昇ってきた。見張りの鵜の背面に控えめの表現として月を配し、黄昏時の光、色、風の感触、それらが強弱緩やかに変化していく様子を描きたく、全体を落ち着いた色調で描き、やさしく吹き続ける風と水の匂いなど、一見モノクロームに近い表現のなかにも、新たな表現の可能性への夢を重ねた次第である。



*「月刊石材」2018年8月号より転載
内容は同号掲載当時のものです


本間洋一(ほんま よういち)
東京生まれ。武蔵野美術学校(現美術大学)卒業。大理石モザイクをはじめ、建築において手仕事で石を活かす造形を専業とし、下絵、模型から現場制作に至る全工程を自ら行ない、建築との融合を目指す。