いしずえ

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天然石割肌モザイク作家・本間洋一「オシドリ」

2020.11.11

その他


本間洋一「オシドリ」
「オシドリ」

(47×57㎝)

天然石割肌モザイク作家
本間洋一



モザイクでオシドリを描きたく準備を始めたのは、かなり前からである。動物園などで管理されているオシドリは、動いている時の変化のある様子を見ることが少なく、やや不満であった。以前、手製の飼育箱で野性の鳩を飼っていた。夕刻になると決まって落ち着きを失い、怪我が心配なほど暴れていたことを思い出した。夕刻に行けば動きのある姿に出会えるのではないかと思い、出かけたが、閉園時間が早いせいか、心に描いていた姿には出会えなかった。

そのような体験後のある日、井の頭公園を訪れた時である。池に半分ほど姿を沈めた形で倒れ込んでいる枯れた巨木に、オシドリがたくさん止まっていた。しばらく眺めていると、その場から飛び立つもの、飛来してそこに止まるもの、そこから池に飛び込むものと、様々な姿が見られた。期待に胸弾ませ、足しげくスケッチに通った時の記憶が甦る。

感動的な姿に幾度か出会っているが、この瞬間をどうとらえるか等の表現力、感性など、更なる葛藤への努力を促されている次第である。

今回のオシドリを主題とした作品では、ダイナミックな造形表現とは異なる内容とした。舞い降りる1羽、1羽ポツンと微睡(まどろ)んでいる姿など、人間社会にも似たファミリーの感覚を重ね合わせた。私にとっての新しい表現を目指しての内容に挑戦、一つの試みとしてご覧いただけたら幸いである。

「オシドリ夫婦」という言葉が流布されているように、いつも寄り添って、一心同体のごとくにまで感じさせているオシドリ。私たち人間にとっても、羨ましい姿の象徴とさえ思われているのではないだろうか。また、子育ての姿や、子離れの近づいた親子の様子等の興味深さに反し、未だ一度も体験に至っていないことは、いつかそのようなシーンに出会えた時の感動を様々に想像させられている次第である。

今回の制作は、実感で得た感動を更に濃縮させ、新たな表現へと高めていこうとしている姿勢とは内容を異にして、実感としての裏付けは乏しいが、各自、個々の方々の想像の世界を共に開いていくことができますならばと、私自身が心に抱いた創造の世界である。どうぞご覧ください。

本間洋一「オシドリ」「オシドリ」制作のための下図と石(一部)



*「月刊石材」2018年9月号より転載
内容は同号掲載当時のものです


本間洋一(ほんま よういち)
東京生まれ。武蔵野美術学校(現美術大学)卒業。大理石モザイクをはじめ、建築において手仕事で石を活かす造形を専業とし、下絵、模型から現場制作に至る全工程を自ら行ない、建築との融合を目指す。