いしずえ

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須田郡司~聖なる石への旅「ホワイトハウスとスパイダー・ロック」(キャニオン・デ・シェイ国定公園)

2020.11.12

その他

写真1


 アリゾナ州に住む部族の1つ、ナバホ族が所有するキャニオン・デ・シェイは、神話学の権威ジョセフ・キャンベルが「地球上で最も神聖な場所」と呼んだ渓谷である(写真1)。

 アリゾナ州北東の町チンリー近くにあるキャニオン・デ・シェイは、東西に約42キロメートルにV字型に延びる渓谷で、ナバホ族の居留地であるとともに、彼らはここを聖なる場所として捉えていた。アメリカ政府が国定公園に指定した後も人々は土地を手放さず、今でもこの渓谷には数家族のナバホ族が生活していると言う。

 ここはアメリカ大陸の中で、人類が最も長く生息している地域の1つであり、遺跡の保存状態がほぼ完璧で、考古学上、文化遺産の研究、そして地質学的にも、非常に貴重な存在と言われている公園でもある。

 キャニオン・デ・シェイ国定公園に入り、最初にビジターセンターで資料と地図をもらい、さっそく展望台へと向かった。展望台からキャニオン全体を見渡すことができる。気の遠くなるような歳月で侵食された地形は、天然の造形美を現している(写真2,3)。

写真2

写真3


 国定公園内で唯一許可なしで渓谷へ降りられるというホワイトハウス遺跡へのトレイルを歩くことにする。巨石に穴を空けて作られたトンネルを潜り、岩場を削って作られた小道をゆっくりと降りてゆく。2つ目の岩のトンネルを潜ると平地が現れた。ふと、上を見上げると3匹の羊が急な岩の斜面に顔を覗かせていた(写真4)。

写真4


 小さな橋を渡り、しばらく歩くと切り立った断崖が現れ、近づくと下方に建物が見えてきた。これがホワイトハウス遺跡だ(写真5)。ホワイトハウス遺跡は、ナバホ族より以前のプエブロの人々(アナサジ・インディアン)によって造られたもので、かつては80部屋があり、1040年頃から1275年頃までに使用されたと推定されている。

 断崖を見上げ、巨大な岩肌を見ていると異次元にいるような不思議な感覚になった。断崖の下部に見える小さな岩屋の穴に吸い込まれてゆくような錯覚に陥った。かつてプエブロの人々は、この巨岩の断崖を聖なる場所としてとらえ、祭祀空間として利用していたのではないだろうか。

写真5


 最後に向かったのは、巨大な岩峰スパイダー・ロックだ(写真6、7)。砂岩でできた赤い2つの尖塔が谷底から高さ244mも突き上げている光景は、迫力があり実に美しい。ナバホ族の人々はこれを「聖なる岩」として崇めている。

写真6

写真7


 ナバホの伝承によると、まだ世界ができて間もない頃、世界にはたくさんの怪獣がいた。その怪獣たちを退治する知恵をくれたのが、スパイダー・ウーマン(蜘蛛のおばあさん)だった。また、ナバホ族の伝統的な織物「ナバホ織り」の技術を教えてくれたのも、スパイダー・ウーマンだという。スパイダー・ロックのてっぺんには、この蜘蛛のおばあさんが住んでいるといわれ、ナバホの子供たちは「いい子にしないと、スパイダー・ウーマンに食べられてしまうよ。スパイダー・ロックのてっぺんが白いのは、言うことを聞かなかった子供たちの骨なんだよ」と聞かされて育つという。

 アメリカ大陸は実に魅力的で雄大な自然景観が広がっている。まだまだ知らない石の世界がある。おばあさん蜘蛛の岩神に別れを告げようと、私は二つの岩峰を凝視した。すると、巨大な夫婦岩の姿と重なった。この巨大な岩峰に、巨大な注連縄を付けることができたなら、世界最大の夫婦岩になる。いつか、そんな夢を実現させてみたい。

 

※『月刊石材』2014年12月号より転載

 

◎All photos: (c) Gunji Suda

◎ 須田 郡司プロフィール
1962年、群馬県生まれ。島根県出雲市在住。巨石ハンター・フォトグラファー。日本国内や世界50カ国以上を訪ね、聖なる石や巨石を撮影。「石の語りべ」として全国を廻り、その魅力を伝えている。写真集『日本の巨石~イワクラの世界』(星雲社)、『日本石巡礼』、『世界石巡礼』(ともに日本経済新聞出版社)、『日本の聖なる石を訪ねて』(祥伝社)など。

◎須田郡司ツイッター
https://twitter.com/voiceofstone