いしずえ
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須田郡司~聖なる石への旅「八仙洞と高山巖〜台湾石巡礼・その2」(台湾)
写真1
台湾石巡礼の途上、台東県長濱村にある八仙洞を訪ねた。ここは旧石器時代の遺跡として知られているが、海蝕洞窟を宗教的な施設として使われている仏教の聖地だった(写真1)。
花蓮県の瑞穂駅からタクシーに乗り、八仙洞へ向かった。車が東海岸へぬける山道に入ると狭い道路はヘアピンカーブが連続する。ようやく太平洋が見え、省道11号線をさらに南下すると海岸沿いに大きな岩盤が見えてきた。近づくとまさに、ホト(女陰)的空間が現れた(写真2)。天然の巨大なホトである。この大きな洞窟は、「霊岩洞」と呼ばれ、中には仏像が安置され霊巖寺というお寺になっていた(写真3、4)。霊巖寺は、安産や子宝の御利益があると言われている。
写真2
写真3
写真4
八仙洞は、地質的に見れば、地殻が上昇する過程で海水の浸食を受け、大小さまざまな海蝕洞が形成されたもので、霊岩洞、潮音洞、永安洞、乾元洞、海雷洞、水簾洞、崑崙洞など十数個の海蝕洞からなっている。
木の階段を上って行くといくつもの海蝕洞へと行くことができる。最初に現れたのが潮音洞と呼ばれる洞窟(写真5)。さらに上がると、他の洞窟が見え、すべて仏教的な施設になっている。100メートルほど上がると、眼下に美しい海岸線が広がっていた(写真6)。高い場所にある乾元洞には、道教の神々も祀られ、日本の神仏習合的な雰囲気があった(写真7)。洞窟の寺院をお参りしていると、地元の信者さんがお参りしていた。子供達は親のまねをして熱心に手を合わせて何かを祈っていた(写真8)。
写真5
写真6
写真7
写真8
日本には、陰陽石のように性地的空間の聖なる場所があるが、ここ台湾も同様に「性地」は「聖地」につながっている印象を持った。
台湾最南端、屏東県の恒春半島に高山巖(別名、関山)と呼ばれる山がある。高山巖は、隆起した珊瑚礁石灰岩で形成された岩山で、ここに来て眺めれば、北に西海岸と大平頂の峠、東を見渡すと恒春と竜鑾潭(恒春の縦谷平原)、南に南湾、鵝鑾鼻などの地域を眺めることができて、恒春の西半島地区の全景を一望することができる。
夕日の頃、台湾海峡に向かって、空の夕焼けが海面に映ることから「関山夕照」で知られ、南台湾の名勝のひとつに数えられるところだ。
海抜152メートルの高山巖山頂には福徳正神を祀る福徳宮と呼ばれる廟がある(写真9)。約100年前に珊瑚礁岩で造られた珍しいもので、となりに洞窟もある。廟の前には、大きな穴が空いていて、中を覗くとまっすぐ地下に向かっていた(写真10)。深くて底が見えない。地元の伝説によれば、この石の穴は海底に直通するとも言われている。
写真9
写真10
高山巖の奇岩で知られているのが『飛来石』と『福霊亀』だ。『飛来石』は地元では約500年前にフィリピンから強風に飛ばされてやってきた、という伝説がある(写真11)。実際に、地質学上でも「外来の石」と呼んでいて、原因はこの岩質と周辺の石が異なっているためで、長い時間に風化あるいは潮の浸食作用でこの形になったもの。『福霊亀』は、その形が頭を上げて一生懸命に山を登りたいカメのようで、多くの人々は、幸福を祈る袋を石に掛けて「次第に昇進する」、「健康と長生き」を願うという(写真12,13)。
写真11
写真12
写真13
高山巖は、墾丁国家公園の中にある景勝地のひとつで、多くの参拝者が訪れる聖なる場所だ。墾丁国家公園は、他に猫鼻頭岬、大尖石山(写真14、高さ318メートル)、船帆石などの奇岩風景がある。
ただ、驚いたことは南湾海水浴場の近くに建てられた台湾電力第三原子力発電所(写真15)。きれいなビーチを散歩する観光客の背後に立地する異様な光景。これもまた、日本と同じ負の遺産だ……。
写真14
写真15
※『月刊石材』2015年5月号より転載
◎All photos: (c) Gunji Suda
◎ 須田 郡司プロフィール
1962年、群馬県生まれ。島根県出雲市在住。巨石ハンター・フォトグラファー。日本国内や世界50カ国以上を訪ね、聖なる石や巨石を撮影。「石の語りべ」として全国を廻り、その魅力を伝えている。写真集『日本の巨石~イワクラの世界』(星雲社)、『日本石巡礼』、『世界石巡礼』(ともに日本経済新聞出版社)、『日本の聖なる石を訪ねて』(祥伝社)など。
◎須田郡司ツイッター
https://twitter.com/voiceofstone