いしずえ

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須田郡司~聖なる石への旅「イワクラサミット in 出雲〜出雲の知られざる石の世界へようこそ!」

2020.11.12

その他


写真1


 2015年10月17日正午すぎ、出雲市の大社文化プレイスうらら館ごえんホールには、「イワクラサミット in 出雲」への参加者が集まっていた(写真1)。

 昨年の秋、イワクラ(磐座)学会10周年記念大会が大阪市立博物館で開催された際、出雲市に移住したばかりの私は、次回のサミット開催地に出雲を提案させていただいた。なぜ、出雲開催の提案をしたかといえば、出雲では石神さんへの関心が高かったからだ。3年ほど前から荒神谷博物館(出雲市)は、文化庁の「文化遺産を活かした地域活性化事業」という助成事業で石神探訪ツアーを企画したり、「出雲の石神さま」というリーフレットを発行していたのだ。私は、荒神谷博物館の方々に協力をお願いしつつ、イワクラサミット出雲実行委員会を立ち上げた。

 快晴のもと、ごえんホールには、イワクラ(磐座)学会会員の方々と、100人を超える一般の方々が参集していた。13時より、第12回イワクラサミット in 出雲が始まった。

 初めにイワクラ(磐座)学会副会長の柳原輝明氏の挨拶、オープニングセレモニーとして笛作家の樋野達夫氏による龍笛、土笛、石笛の演奏が行なわれた。そして万九千(まんくせん)神社宮司・島根県神社庁参与の錦田剛志氏による基調講演が「鎮守の森を護るのは誰か?~宍道・女夫岩の保存問題に学ぶべき事~」という演題で行なわれた。次に荒神谷博物館副館長の平野芳英氏による「出雲人とともに活きる石神信仰」の講演。その後、私は「世界の石の聖地を訪ねて」という演目でスライドを使ってお話をさせていただく。最後に「山陰のイワクラツーリズム」というテーマでシンポジウムを行ない、パネラーに平野芳英氏(荒神谷博物館副館長)、河野美知氏(社☆ガール代表)、稲根克也氏(大社史話会事務局長)、私はコーディネーターを務めさせていただいた(写真2)

写真2


 サミットでは、巨石文化は過去のものではなく、ここ出雲では今でも息づいている石神・磐座信仰がたくさんあることを強く実感した。そして、地域に残る石文化を尊重しながら観光につなげる取り組みが大事である。おかげさまで、サミットは盛況のもと終えることができた。翌18日、19日と一泊二日の出雲イワクラツアーも快晴に恵まれた。小型バス2台で四十数名の方々を出雲市、雲南市、松江市の磐座にご案内させていただいた(写真3)。

写真3


 このサミットに向けて、私は『出雲の國・巨石マップ』なるものを制作した(写真4)。これは、出雲市内に点在する人と関わる巨石をマップ化したものだ。42ヵ所の巨石を紹介している。磐座や石神といった信仰される巨石、伝承を持つ石、小さな石から大きな石、奇岩怪石・岩・洞窟などを選定させていただいた。

写真4


 この巨石マップを通じて、身近にある巨石文化に少しでも興味を持っていただき、実際に巨石を訪ねることをお薦めしたかったからだ。巨石文化は、ある意味先人たちの宝でもある。

 そこで今回は、巨石マップの中から7ヵ所ほど紹介させていただく。出雲には、まだまだ知られざる石の世界がある。そして、今後も出雲の石の世界を探訪しつつ、その魅力を語り継いでゆきたいと思う。

大船山の烏帽子岩(出雲市多久町)。神名樋山の大船山(327m)の西側にある高さ約3mの烏帽子岩は、『出雲國風土記』(733年編纂)に記された石神。多伎都比古命(たきつひこのみこと)の魂が宿り、日照りの時に神に雨乞いをすると雨を降らせてくれるという。

経島(ふみしま。出雲市大社町日御碕)。往昔、日沉宮(ひしずみのみや)御鎮座の霊域として、毎年8月7日、夕日の祭典のため神職が渡島する他は、古来、何人も上ることを許されぬ島。柱状節理をした石英角斑岩の岩相から成り、“ウミネコ”の産卵・繁殖地として知られる。

鰐淵寺浮浪滝(がくえんじふろうのたき)/鰐淵寺は後白河法皇『梁塵秘抄』の今様に歌が詠まれる平安時代の修験道の霊地。修験者の守護神「蔵王権現」の聖地とされる浮浪滝は、落差が18mあり、滝の奥には岩壁にはめ込まれているかのように「蔵王堂」がある。

万九千(まんくせん)神社の石柱 出雲市斐川町併川字神立/万九千神社は古くより出雲国の神在祭(旧暦十月)に際し、全国から参集された八百万神が最後にお立ち寄りになり、神議りと神宴(直会)を催す、神立の社で知られている。136年ぶりの軸立遷宮で、斐伊川の石で御神体を一新された。

和歌山権現(わかさんごんげん) 出雲市多伎町小田/小田川沿いの山中に高さ15mもの巨岩に木造の和歌山権現が鎮座。お乳の神様で親しまれている。『出雲國風土記』には多支(たき)社と記され、祭神は大国主命の娘、阿陀加夜努志多伎吉比売(あだかやぬしたききひめ)命。

仏経山伎比佐(ぶっきょうざんきひさ)の大岩 出雲市斐川町神氷/仏経山には、多くの石神信仰の地が伝承される。『出雲國風土記』の出雲郡の伎比佐社に関わる石神と考えられる。周囲は照葉樹林に覆われ、背後に巨石群も点在する聖域的な空間。

多倍神社(たべじんじゃ) 出雲市佐田町/式内社・多倍神社に比定されている古社。御祭神は須佐之男命。須佐之男の鬼退治伝承のある地で、退治した鬼の首を埋め、大岩(首岩)で蓋をした上に社殿があるとも伝えられる。本来は、御神体として祀られていたと考えられる。

 

※『月刊石材』2015年11月号より転載

 


◎All photos: (c) Gunji Suda

◎ 須田 郡司プロフィール
1962年、群馬県生まれ。島根県出雲市在住。巨石ハンター・フォトグラファー。日本国内や世界50カ国以上を訪ね、聖なる石や巨石を撮影。「石の語りべ」として全国を廻り、その魅力を伝えている。写真集『日本の巨石~イワクラの世界』(星雲社)、『日本石巡礼』、『世界石巡礼』(ともに日本経済新聞出版社)、『日本の聖なる石を訪ねて』(祥伝社)など。

◎須田郡司ツイッター
https://twitter.com/voiceofstone