いしずえ

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京都:『滝又の石佛』駐車場に巨大な龍が出現。石仏彫刻・イサ工房が「龍と迦楼羅王」などに続き制作

2022.10.19

石仏・灯籠・鳥居


●『月刊石材』2022年9月号掲載



『滝又の石佛』(京都京北の私有地山林)駐車場に巨大な龍が出現

石仏彫刻・イサ工房(京都市右京区)が「龍と迦楼羅王」などに続き制作


「滝又の石仏」と書かれたモニュメントと龍の石像をあわせた総高は5.5メートル。下から龍の顔の高さまでが約5メートル。モニュメントの前に立つのが諌本代表(「滝又の石仏」と書かれた龍の台座となるモニュメントは、2020年7月に設置)

 石仏彫刻・イサ工房(諌本竜一代表)は、2022年7月に巨大な龍の石像を『滝又の石佛』駐車場(京都市右京区)にあるモニュメントのうえに設置した。龍の制作も諌本代表(36歳)によるもので、他の仕事をしながらでもあったが、完成までに8ヵ月を要した大作だ。

使用した石はG654。ノミ切り仕上げ(爪や角、瞳は水磨き仕上げ)。爪(一部)を台石から出して鋭さを表現した。石のホゾ(14×14×11寸)で固定した


「ノミを叩く体勢がうまくとれなかったり、特に龍の顔の左側の口のなかは、手が入りづらくてたいへんでした。石を倒したり起こしたりは何度もできず、また起こして見ると、倒したときとはイメージが違うことなどもあり、完成までに時間がかかってしまいました」

 諌本代表は、龍を制作するに当たって苦労した点をこう話す。龍は前後2つの石からなり、全長は4.4メートル(前部2.0メートル、後部2.4メートル)で、高さは1.5メートル、幅は1.1メートル。総重量は7.4トン(前部4.2トン、後部3.2トン)で、台座は本体と1つ石でつくる。その大きさから、イサ工房の作業場で石を動かすことはたいへんな作業だった。

 
 今回の仕事は、「駐車場のモニュメントのうえに何か載せたいので考えてほしい」という施主の相談からスタート。2021年8月のことで、『滝又の石佛』では2019年に「龍と迦楼羅王」を制作していたこともあり、諌本代表は「龍がいい」と考え、今回は双龍や龍虎などのパターンも提案した。

 

 龍の制作についての了承を得てからは、「目立つように顔を大きめにしてほしい」「口は開けてほしい」など、施主の要望を聞きながらイメージを膨らませ、模型づくりに1ヵ月ほどかけた。その姿かたちは木彫の龍を参考にし、江戸時代に主に房総半島で活躍した彫工の初代・波の伊八(宝暦元〔1751〕年 ‐ 文政7〔1824〕年)の作品集などからヒントを得た。

 今回使用した石は、予算とその下のモニュメントで使用されている石の色目を考慮して、中国産のG654を選んだ。原石が中国から手元に届いたのは2021年9月末で、できるだけ重量を軽くするために、不要な部分は中国でカットしてから輸入した(カット前の原石の重量は前部9・6トン、後部で6・8トン)。


 諌本代表は、「硬めの石でしたが、加工はしやすい石でした」といい、黒玉は多かったが、完成までにキズが一切出なかったことに何よりも安堵したという。そして、「人がどう思うかはわかりませんが、自分ではよくできたと思っています(笑)」と諌本代表。龍が設置されたときの状況に加え、遠くから見たときのこともイメージしながら制作に当たった。設置場所の駐車場はイサ工房の作業場から車で5分ほどの場所にあり、現地視察も何度か行なった。


 「制作した龍は、模型とは若干違います。模型どおりに石をくり抜くと迫力が減り、また雨水が溜まるからです。遠くから見ることも意識して、あえて細かすぎる表現は避けました。そのほうが印象深いのではないかと。また普段は龍の上部は見えませんが、後世、修復などで上から見る人もいるかもしれません。そのときに『仕事が悪い』と思われないように、当然のことですが、すべてを丁寧につくりました」


 龍を真下から見ることは少ないであろうことから、目線は下に落とさなかった。施主の要望でもあったが、爪は台石から出して鋭さを表現した。また角や爪、瞳は砥石で手磨きしてアクセントを持たせるなど、細部までこだわった。


 「自由にやらせてもらいました。ありがたいことですね」と諌本代表。施主は作業場に何度か来たが、制作を開始してからはその状況を見ているだけで、指図などは一切なかった。

『滝又の石佛』は京都市内から車で約1時間の私有地山林にあり、石仏を中心に施主が希望した39の石像が置かれている。イサ工房ではそのうち11体を受注し、制作した(『月刊石材』2014年6月号2020年1月号に既報)。近くに行かれた際は、見学をお勧めしたいスポットだ。

 

◎石仏彫刻・イサ工房
住所=京都市右京区京北周山町森ノ下10