いしずえ

お墓や石に関するさまざまな注目情報を発信します。

齋木三男さんを講師に招き、水鉢づくりの研修会を開催 日本庭園協会埼玉県支部

2024.06.14

その他

●『月刊石材』2024年4月号掲載



齋木三男さんを講師に招き、水鉢づくりの研修会を開催

日本庭園協会埼玉県支部

 

水鉢づくりの研修会のようす(2日目)。
中央に立つのは、参加者の作業を見つめる齋木さん

 

 日本庭園協会埼玉県支部(山田祐司支部長)は2024年3月2日・3日の2日間、齋木七郎石材本家(群馬県中之条町)の齋木三男さんを講師に招き、石材加工の研修会を行なった。会場はテクノ・ホルティ園芸専門学校・埼玉校(埼玉県行田市)で、参加者は支部会員だけではなく、同学校の生徒4人も含めて25人が参加した。研修内容は水鉢づくり。参加者それぞれに、一尺一寸×一尺一寸×五寸のサイズに切削された安山岩が用意された(生徒は2人で1つ)。道具は各自が普段使っているものを持参し、防塵メガネや防塵マスクなども各自が用意した。

会場となったテクノ・ホルティ園芸専門学校の生徒4人(1人は女子生徒。写真右の左側)と先生(写真左の中央)



 「埼玉県支部のお一人の奥様が私の住む中之条町出身で、『石の叩き方を勉強したいので、ワークショップの講師をしてもらえないか』という話が今回のきっかけです。最初は造園で使うノミやコヤスケの使い方を教える講習を検討しましたが、せっかくならモノをつくって持ち帰ることができるほうがいいと思い、水鉢づくりを課題にしました」

 今回の研修会で講師を務めた齋木さんはこう話す。齋木さんは1975年、群馬県中之条町生まれ。地元の高校を卒業後、新潟県の彫刻家(故・加藤亮氏、石彪石彫工房代表)のもとで5年間修業を積み、伝統的な手彫りでの石彫を基本に、石仏から彫刻、モニュメントまで制作する(『月刊石材』2023年7月号に、齋木七郎石材本家の記事あり)。

 

講師を務めた齋木さん


  「埼玉県支部のメンバーは、石が好きなメンバーが集まっています。加工も皆さん好きですね。石を庭のなかで使うと重量感がでます。大きな石や量が多くなると、お客様の予算の関係で使用量に限りが出て来る場合もありますが、メンバーと話をすると『できるだけ使いたい』という声が多いです。それぞれ違う雰囲気の庭をつくっていますが、自分たちが石好きだから、庭のなかで石を使いたいと常に思っていますね」 

 研修会を主催した山田支部長はこう話す。埼玉県支部のメンバーは現在49名。県外在住でも同支部に所属することができ、今回の研修会には長野県、群馬県、栃木県、神奈川県からの参加者もいた。

2日目の朝、挨拶する山田支部長(左)と齋木さん

 参加者の皆さん


 支部の歴史は二十数年。これまでにさまざまな研修会を開催しており、石に関していえば石積みなどで、研修会場として十数年使用したさいたま市いずみ高校の50周年記念事業として、校内の広場に小端積みで石のモニュメント(球体)をつくったこともあった。

 今回の研修会は、「齋木さんの工場見学や作品を見学する案もあった」と山田支部長はいうが、打ち合わせの結果、水鉢づくりになった。今回使用した安山岩は齋木さんが用意したもので、群馬県産の2種類と、参加者が増えたため急きょ長野県産の佐久石を用意。いずれも同じくらいの軟らかさの石を選んだ。

 「道具の手入れが行き届いていなかったので、まずはほとんどのノミを私が研ぎ直しました。するとノミが切れるので、『こんなに違うの』と皆さんビックリしていました(笑)。もちろん、研ぎ方も教えてあげました」

 齋木さんは「予想できたこと」といい、道具を研ぐ電気グラインダーも事前に用意していた。

参加者が持参したノミをグラインダーで研ぐ齋木さん


 水鉢づくりは、初日である程度かたちになり、齋木さんが予想していたよりも早く進んだ。それぞれ普段から道具を使っているからで、「効率的な道具の使い方などを教えました」と齋木さん。若い参加者が目立ち、女性の姿もあった。マンツーマンでお互いに話をしながら質問にも答え、実演をして手本も見せた。



「造園屋さんとして、水鉢をたくさん見ているからだと思いますが、それぞれの美意識のなかで、自分のかたちの水鉢をそれぞれが追求されていました。隣の人の作業、作品を意識することなく、自分と向き合っている姿がとても新鮮でした。誰と勝負することなく、『つくりたかった』『経験したかった』という点もあると思いますが、これまでのワークショップとは違いましたね」

 齋木さんは今回、見本となる水鉢を用意した。もちろん齋木さんがつくったもので、かたちはシンプル。一方で、参加者が制作した水鉢のかたちはすべて違い、仕上げもさまざま。齋木さんが過去に関わったワークショップで、これほどまでに個性豊かな作品ができたことはなかったそうだ。



 「植木屋はそれぞれ自分の考える庭をつくっています。自分たちでデザインを考えて仕事に日々向かい、自分なりのものを探しながら、ましてや『同じものは嫌』という部分があったりします(笑)。今回も個性が出ており、かたちや細かいディテールなどが違い、私も見ていて面白かったですね」(山田支部長)

 生徒4人には、学校の先生1人がついて指導に当たったが、「一つの石を半分ずつ仕上げた」という生徒たちもおり、庭の世界では若いうちから個性を尊重し、育てているようす。ただ、「支部には若い人がなかなか入ってこないので、平均年齢は徐々に上がってきている」と山田支部長はいい、若い世代の職人不足は庭の世界も同じようだ。

 研修会参加者のうち、4人は会場となったテクノ・ホルティ園芸専門学校の卒業生。山田支部長もその1人で、在学していた30年ほど前は、造園コースの生徒が1学年に40人ほどいたが、いまは10人に満たないという。市場も縮小傾向だが、SNS等を使って各自が情報を発信するなどし、市場を拡大する努力をしている。

テクノ・ホルティ園芸専門学校を昨年春に卒業したという参加者(21歳)。ノミ痕をハッキリと残したくないと、会場にあった石で石の表面を研ぐ。また、同参加者が在学中に制作したピラミッド


 「住宅事情が変化しているわけですから、新たな庭を考えていく必要があります。今回のように石屋さんである齋木さんからいろいろと教わったり、私は音楽が好きですので、音楽からヒントを得たり。庭以外の世界を見る、知ることが大事だと感じています」

 山田支部長は実家が造園業ということではなく、ものづくりが好きで庭の世界に入った。1人で仕事をしていると限界があることから、日本庭園協会埼玉県支部に入会。同じ志を持つメンバーの集まりであり、お互いに切磋琢磨し、よい意味でライバル意識があるという。

 埼玉県支部では、会員がつくった庭の作品発表会を年末に実施している。各自がその年につくった自信作を、写真撮影してプリントを展示する。撮影時の天気、庭に水を打つか否か、アングルなどによって見栄えは違い、山田支部長は「庭を実際に見たときと異なるかもしれませんが、お客様へ訴える表現力の勉強にもなる」という。支部会員が全員参加するわけではないが、お互いに刺激し合う貴重な時間になっている。

 「限られた時間のなかで、それぞれ随所に工夫が見られました。よい意味で欲が出たようで、完成しなかった方もいたかもしれませんが、それぞれよくまとめられたと思います。石も庭もお互い文化的な仕事なので、業界の垣根を超えて、このような交流が増えたらお互いのためになると思います。石屋さんも庭の世界を勉強できればいいですね」(齋木さん)

 今回は時間と参加者が持っている道具が限られていることから、電動工具の使用を認めた。ただ、電動工具を一切使わない参加者もおり、「石屋さんよりも道具の使い方が上手い人もいた」と齋木さん。

最後に水鉢の天端の角をコヤスケではつる。
石材業界にはない発想であろう


 「石は修業時代から叩いていた。石積みで一日中、石を加工するときもある」という参加者や、「学校の授業が終わったあと、石のピラミッドをみかも石(栃木県産)でつくった。石はとても好き」という参加者もいた。女性の参加者に話を聞くと、次のように答えてくれた。 

 「普段、こんなに石に触れる機会がないので勉強になった。他の方の創意工夫も見ることができた。石をただ叩けばいい、ということではないことを実感した。仕上げ方などに違いがあることもわかった」

 支部会員の従業員であり、社長は同じく女性。仕事は2人でし、庭の手入れがメインで工事の仕事は少ないが、社長は女性庭師として海外で仕事をすることもあるということだった。

 初日の研修会後には懇親会も開催された。齋木さんももちろん参加し、「石に詳しく、石屋さんとは違う目線で、経年変化の美しさについて話をされた方もいた」という。「五輪塔をつくりたい」「次も参加したい」といった声が参加者から出ており、齋木さん自身も「勉強になりました。また開催できれば」と次回を楽しみにしている。

 研修会の最後には、参加者それぞれが自身の作品について説明し、感想を述べる時間もあった。仕上げ方に関する質問などもあり、それぞれが最後まで学ぶ姿勢を忘れず、充実した研修会となった。

研修後、水洗いした作品を並べて見比べた

研修会の最後には、参加者それぞれが自身の作品について説明し、感想を述べた



◎齋木七郎石材本家
群馬県吾妻郡中之条町1921-4
https://www.saikistone.com/


◎テクノ・ホルティ園芸専門学校
https://www.ito.ac.jp/