いしずえ

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隈研吾×大島石=fenua / 設計:隈研吾建築都市設計事務所 / 石工事:越智久石材センター

2024.06.18

建築・造園・石垣


『月刊石材』2024年5月号掲載 
*掲載記事を再編


隈研吾×大島石=fenua
フレンチレストランfenua(フェヌア)
ADD:愛媛県今治市宮窪町友浦3338
設計:隈研吾建築都市設計事務所
石工事(採掘・加工・施工):株式会社越智久石材センター

写真:越智久石材センター提供
*編集部撮影の写真は完成検査時に撮影


fenua_ochihisaフレンチレストランfenua外観
外構(巨石、ゴロ太等)や外壁、テラス、ガーデン、店内に大島石をふんだんに使用する



瀬戸内しまなみ海道沿いの島、愛媛県今治市の大島に2024年春、隈研吾建築都市設計事務所が設計を手がけ、世界的建築家の隈研吾氏がデザインプロデュースしたフレンチレストランfenua(オーナーシェフ:森重正浩氏)がオープンしました。

建築の場所性を物語る地場産材の活用を基本とする隈氏らしく、外壁、外構、店内にも大島石をふんだんに使用。野趣あふれる石肌が、ジビエをはじめ地元・しまなみのゆたかな食材でフランス料理を創作するfenuaでの特別なひと時を演出します。

美しく穏やかな瀬戸内海を目の前に見る正面外構には巨大な大島石をダイナミックに配し、エントランス側(裏手)の外壁にはランダムなドリル痕を意匠とする重厚な割肌の厚板を全面的に取り付けています。テラスには一石で最大10トン以上もある無骨で分厚い巨石を敷き詰め、店内にもレセプションカウンターやテーブル等に、素肌を生かした大島石を使用。いずれも人工物である建材では到底なし得ない、地球そのものの強大なエネルギーを発しています。

以下に、森重氏、隈研吾建築都市設計事務所の押尾章治氏、同設計事務所・ランドスケープアーキテクトの間瀬京子氏、そして越智久石材センター社長の越智英輔氏のコメントを交えながら、fenuaの建築と大島石の魅力に迫っていきます。


fenua_ochihisafenua店内。オーナーシェフ・森重正浩氏が創作するフランス料理を楽しめる

fenua_ochihisa外構には大島石の巨石をダイナミックに配置する
外壁の木材は今治造船所で足場として使用されていたもの


fenua_ochihisaエントランス側。外壁やガーデン(敷石、テーブル、景石等)に大島石を使用


銘石・大島石の産地、愛媛県今治市・大島にこの春、大島石をふんだんに使用したフレンチレストランfenua(フェヌア)がオープンした。設計は隈研吾建築都市設計事務所で、世界的建築家の隈研吾氏が細部に至るまでデザインプロデュースした。石工事は、グループで大島石の採掘・加工・施工等を展開する(株)越智久石材センター(越智英輔社長)が手がけた。

建築の場所性を物語る地場産材の活用を基本とする隈氏らしく、外壁、外構、テラス、店内に大島石を大量に使用している。特に外構の石組やテラスの敷石は、一石で最大10トン以上もある皮肌等の巨石をダイナミックに配置。エントランス側(裏手、右頁写真)の外壁には、ランダムなドリル痕や天然模様を意匠として採り入れた割肌の厚板を全面的に取り付ける。また店内にも、ウェイティングルームのテーブルやレセプションカウンター等に野趣あふれる大島石を使用。いずれも大島石の自然の肌、表情、形状を生かしてデザイン設計された美しさ、力強さ、重厚感が、清潔で瀟洒なレストランの空間美を一層引き立たせ、建築関係者や来店客等の大きな話題を呼んでいる。


fenua_ochihisaテラスの敷石。一石で最大10トン以上ある無骨な大島石を配置する

fenua_ochihisaテラスの敷石とゴロ太(大島石)


「最初はこれほどのボリューム、スケールで大島石を使用する予定ではありませんでした。でも越智久さんと出会って石の話を聞き、実際に採石場を見に行き、その魅力や迫力に触れると、やはり全面的に使いたいと考えました。越智久さんにも『(コストの関係で)島外には大きな石のままでは持ち出せないが、地元の大島だからできること。ぜひ大きな石をお使いください』と、快くご協力いただきました」

フェヌアのオーナーシェフで日本のフランス料理界をけん引する一人、森重正浩氏はそう話す。森重氏はフランスやイタリアで料理の腕を磨き、帰国後は東京・奥沢で26年間、フレンチレストランを営んできた。同時に「いつか故郷(広島県三原市)の人たちに美味しいフランス料理を饗したい」との思いから、10年ほど前から瀬戸内地域でお店の候補地を探し始める。そして、自身がヨーロッパで勤めていたレストランのあるフレンチアルプスの美しい景色を思い出させる当地と出合い、その自然や景観、食材、そして人々の魅力に惹かれて2021年に移住。

「フェヌアでは私が創作するフランス料理を通じて、皆さんに非日常的な快楽を提供したい。大島石の仕様、デザインそのものがすでに非日常的で、その圧倒的な重厚感がお店の風格を高めてくれています」ともいう。


fenua_ochihisaエントランス敷石(完成検査時に編集部撮影)

fenua_ochihisa左:エントランス側の外壁(編集部撮影)
右:長尺の大島石によるテーブルとベンチ


fenua_ochihisa店内にもレセプションカウンター、テーブル等の大島石を配置する(編集部撮影)

fenua_ochihisa左:大島石のレセプションカウンター
右:大島石のテーブルとソファー。ソファーは隈研吾氏のデザイン



お店づくりを具現化する過程で、同じ大島にある亀老山展望台(1994年竣工)からの美しい眺望を気に入り、その展望施設を設計したのが隈研吾建築都市設計事務所であることを知った森重氏は2022年の暮れ、隈氏に店舗設計を依頼する手紙を書いた。森重氏の熱意に応えようと、隈氏は亀老山展望台プロジェクトを担当した押尾章治氏(同設計事務所パートナー)にフェヌアのプロジェクトを相談し、翌年の初春、いよいよ計画が本格的に始動する。

森重氏と同じく押尾氏も「当初は大島石をこれほど大々的に使用する予定ではなかった」というが、地場産材を活用する同設計事務所として当然、大島石の存在は見逃していなかった。押尾氏は隈氏とともにたびたび大島を訪れ、越智久石材センター・越智社長と出会い、大島石採掘場にも何度も足を運ぶ。そうして大島石の魅力を知るほどに、「その石の塊の大きさ、存在感、説得力、石切場の迫力を無視することができなくなっていった」という。

「大島に来ると、きれいに成形された建材としての石への興味を忘れてしまうくらいです。フェヌアの現場では、たくさんの大島石の自然の表情、姿かたちに接しました。同時に、そうした自然の風合いに寄り添いながらも活かそうとする、石屋さんたちの人の営みにも触れました。それらをかたちにしたいと考えたのです。手つかずの自然のなかに、どのように人為的な見立ての自然を織り込むかということです。いわば日本庭園のような捉え方ですが、より人と自然の関係の素晴らしさや奥深さが表われるのではないかと思いました。自然(素材)との対話は私たちが探求し続けていること。今回、越智久さんに教わった石の目の読み方なども活かして、今後はさらに石との対話を続けていきたいと考えています」(押尾氏コメント)


fenua_ochihisa左:大島石のドアハンドル / 右:大島石のゴロ太

fenua_ochihisa外構の石組で指示を出す隈研吾建築都市設計事務所ランドスケープアーキテクト・間瀬京子氏(編集部撮影)

fenua_ochihisa左:fenuaのオーナーシェフ・森重正浩氏 / 中:隈研吾建築都市設計事務所パートナー・押尾章治氏
右:大島石採掘場で中央は隈研吾氏、左は押尾氏、右は越智久石材センター・越智英輔社長(左・中は編集部撮影)



そして、その対話を最も体感しているのが、同設計事務所ランドスケープアーキテクトの間瀬京子氏であろう。間瀬氏はフェヌアで外構の石組やテラスの敷石等を手がけ、その他のプロジェクトでも同様に石の配置、デザインを多数手がけている。地場産石材を使用する場合は、「許されるのならば必ず石切場へ行き、自分で石を選びます。石屋さんには驚かれますが、そうしないと『これ』という石にはなかなか出合えません」という。

「大島石を使うのは初めてで、越智久さんの採掘場は大きく魅力的な石が豊富です。これほどダイナミックに石を使える現場は珍しく、それだけに地球のエネルギーを反映する石の表情を一つひとつ最大限引き出せるように、建築チームの北谷啓氏(同設計事務所・設計室長)とともに配置を考え、建築と庭のシームレスな空間を創ることができました。石の魅力は自然の造形美であり、軽率に手を加えるのではなく、石本来の美しさを生かしてあげることが大切だと思います」(間瀬氏コメント)


fenua_ochihisa完成検査時には隈研吾氏が書いた店名サインの掲示位置を決めた
左写真の右端は隈研吾建築都市設計事務所・設計室長の北谷啓氏
右写真の右は越智社長、左は同社職人の藤原恭兵さん(編集部撮影)



間瀬氏の感性をはじめ、同設計事務所による石の使い方、表現に感銘を受けるのが、越智久石材センターの職人たちだ。石組や敷石の配置から石壁の意匠、テーブルの置き方、ドアハンドルのデザインなど、細部まで同設計事務所がデザイン設計し、それに沿って同社が加工・施工を行なった。越智社長はこう話す。

「このプロジェクトで経験したことすべてが、私たちの学びになります。当社は現在、各地で建築石工事を請けていますが、今後の仕事において今回の学びはとても大きな意味を持ちます。業界全体で共有できることもあるはずで、各産地と連携し、日本の石の市場(墓石、建築、他)を切り開いていきたいと考えています」

越智久石材センター、そして大島石の今後の展開がさらに楽しみだ。


fenua_ochihisa越智久石材センターグループ・(有)越智久産業の大島石採掘場
面積は合計で22万平方メートル。大材・長尺物も豊富(編集部撮影)




・フレンチレストランfenua
愛媛県今治市宮窪町友浦3338
https://fenua-shimanami.com/

・隈研吾建築都市設計事務所
https://kkaa.co.jp/

・株式会社越智久石材センター
愛媛県今治市宮窪町早川1077
http://ochihisa.com/