いしずえ

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できるだけ個性を出さないように。石の性質を活かした表現を心掛ける。(有)小泉石材店 四代目 小泉俊春さん

2024.07.21

石仏・灯籠・鳥居

小泉石材店内に置かれている毘沙門天立像。
高さは約20センチ、神奈川県産の根府川石を使用


できるだけ個性を出さないように。石の性質を活かした表現を心掛ける
(有)小泉石材店 四代目 小泉俊春 さん


 「個性を前面に出している方も多いですが、個性を出し過ぎてはダメだと思っています。結果的に人が見ると個性が出ている。それでいいのではないかなと。つくり過ぎないこと。作為的につくると嫌味に見える場合も多いので、できるだけ個性を出さないようにしています」

(有)小泉石材店(埼玉県所沢市)の四代目、小泉俊春さんは自身の作品についてこう話す。去る5月17日か22日までの6日間は、東京・神楽坂のAYUMI GALLERYで個展『小泉俊春 石仏展 ―手のひら仏の佇まい―』を開催し、来場者から高い評価を得た。

 小泉さんは1953(昭和28)年生まれ。二十代から石材業に携わり、石都・岡崎の(有)磯貝彫刻で1年修業した経験を持つ。「家業を継ぐにあたって他人の飯を食べてこようという思いからだった」と小泉さん。ただ、1年間という短期間であっても、舟形地蔵や狛犬などをつくらせてもらった。需要があった時代ということもあろうが、小泉さんはすでに彫刻センスがあったのだと思われる。

二代目が制作したキツネ


 小泉石材店は代々、墓石販売を主とする石材店であるが、二代目、三代目がつくったお地蔵様やキツネなどは残っており、小泉さんは「小さいながらもよくできている」という。若い頃はもちろん、現在でも各地の石造物を見て廻り、奈良で見た頭塔は小泉さんの石仏づくりにインパクトを与え、「『これだけの薄肉彫りで表現できるのか』と感動した」という。

 石彫作家としての展覧会は、神奈川県藤沢市で昨年開催された『掌の上の石仏たち』に続いて二回目。今回は神奈川県産の根府川石本小松石、岐阜県産の蛭川みかげ、香川県産の庵治石を使い、浮彫りを中心として、丸彫り作品も含めて合計45点の石仏を展示した。

「石仏にこだわる理由は、自分が好きだったから。『石仏を身近なところに置きたい、置いてもらいたい』という思いがあり、このサイズになりました。石の性質を活かした表現を心掛け、表情は特に気をつけています。硬過ぎず、砕け過ぎず。石の目が均一ではない箇所も、それなりに活かしながら。ザっとかたちを出して、顔は何回も手直ししています」

 小泉さんの工房は自宅前にあり、そのなかにはたくさんの石仏が並ぶ。かたちづくりまではエアチッパーを使い、その後は突きノミで慎重に表情を出していく。「サンダーなど、回転する道具を使うと石のよさが死んでしまうと思います。石のよさを出すには突きや叩きでないとダメだと思っています。本小松石は特にそうですね」と小泉さん。


工房で石仏を彫る小泉さん(撮影時だけ、マスクを未着用)。
原石に石仏の絵を描き、作業を進めていく


 工房から歩いてすぐ近くに店舗があり、店内には石仏と五輪塔がセンスよく配置されている。オープンしてまだ二年半ほどの新しい店舗で、創業から店を構えていた場所が再開発地区となり、同地に新たに建ったタワーマンションの一階に開店した。

 「現場での打ち合わせがほとんどなので、店内に和洋墓石を並べる気はなく、自分の作品を置くことを前提に、設計の際には『小さな石仏を置ける棚を用意してくれ』とだけ依頼しました。ただ、小泉石材店の仕事は社長にすべて任せているので、私が店にいるのは留守番のときくらいかな(笑)」


オープンしてまだ2年半ほどの店舗内には、
小泉さん制作の石仏と五輪塔がセンスよく配置されている


 小泉石材店の社長は現在、五代目となる小泉優作さん。1979年生まれで、社長になって2年半。小泉さんは「新規の建墓が減っておりたいへんだと思う」というが、口出しは一切しない。とはいえ、社長を交代したことで自分の時間ができたのは事実であり、「相談されれば応えます(笑)」とも話す。

 今回の個展では、24体の石仏を購入いただいた。知り合いの購入もあったが、通りすがりの人がギャラリーに立ち寄り、石仏を購入するケースも多かった。来場者の世代は幅広く、期間中は女性の姿が目立った。男女を問わず、「ほしいと思った石仏がすでに売れてしまっていた」「個展をする際は、ぜひ案内をしてほしい」といった声も数多くあった。

「義理で買ってくれた知り合いも多いので、喜べる数ではないですね(笑)。ただ、個展をしたことで少し前に進めたかな。石に興味のある人が多いこともわかりました。石仏の販売に興味がありそうな方もいましたので、ビジネスになる可能性もあるのかなと。ただ、商売的なことはあまり考えていません。よいものをつくり、結果として買っていただけるのが一番の理想。商売が先行すると、作品づくりが粗くなってしまうと思っています」

個展来場者に石仏を手に取って説明する小泉さん


 購入動機はさまざまであろうが、作品選びは「顔」が第一で、自分好みかどうか。「このお顔が好きで選んだ」という声がほとんどで、もちろん値段も検討材料だが、数万円するものも購入していただけた。

「初対面の人と話すことは少ないので、気疲れしましたね」と小泉さん。「『同じ仏像でも木彫と違って、石仏だと温かみがある』といっていただける方もいました。私の意図を理解してもらえていると思い、嬉しかったですね」とも話し、前回以上に手応えを感じる個展になった。

 個展には、小泉さんが所属する埼玉県石材業協会のメンバーが会員親睦会の一環で見学に来たのをはじめ、石材業者も数多く訪れた。

 「『自分も頑張らないと』という人もいたので、刺激になったかな。つくる石屋さんが少しでも増えてほしいですね。私がこの歳になってもまだつくっているのは、『一生涯、石工でありたい』という思いが根本的にあるからです」

 小泉さんの石仏は素朴で、温かみがある作品が多い。「個性を出さない。つくり過ぎない」というが、高い技術とセンスがあってのことであり、またこれまでの経験が作品に現れているといえよう。

石仏を見つめる来場者


「個展ができるような石彫作品を、若い頃からつくりたいと思っていた」と小泉さん。また「年齢は関係ない。やる気の問題でしょう。私自身、あと10年くらいは頑張れるかな(笑)」といい、その言葉は石材業界に対する叱咤激励ともいえるであろう。

 小泉さんの次回の個展は、いまのところ2025年の6月か9月、前回開催した神奈川県藤沢市にあるART&CAFE「湘南くじら館」で開催を予定する。「テーマを決めて、本小松石にこだわるのも面白いかな」と小泉さん。次回の開催がいまから楽しみだ。

◎(有)小泉石材店
埼玉県所沢市東町12―10
ブランズタワー所沢101
https://www.koizumistone.com/


●『月刊石材』2024年6月号掲載