特別企画

お墓や石について、さまざまな声をお届けします。

想像もしなかったものが、石に向き合っているときに生まれてくる―彫刻家 樂雅臣

2021.08.20

石の表情・景色を生かしてあげたい
――お茶碗など焼き物の世界では「景色」ということをいいますね。石にも景色(表情)を感じることはありますか?
 黒みかげにもいろんな種類の石がありますし、僕のベースともいえる「ジンバブエブラック」でも薄手のものがあったりして、割れ方も違います。そういう意味では表情を見ながら石を選ぶということが、まずはありますね。

面白いのは、僕が石を購入する石材業者の石置き場で見つけた赤トラバーチンで、1つの石のなかで大部分がいわゆる赤色なのですが、オレンジ、ベージュ、そして白と、全然違う色合い、表情の層を持つ石を見つけたんです。それは赤トラバーチンとしては使われない部分になると思いますが、その層の堆積を見たときに、石が地球そのものであることを実感しました。

そして、それを自分の彫刻として表そうと考えて、その石で作品をつくりました。同じ石でも表情が違う、景色が違う、それこそが石の魅力であることを伝えたかった。空隙(くうげき)が多く、建築材として使う際には穴を埋めたりすると思いますが、それも僕はそのまま使いました。

建築でも墓石でも普通、石は製材されて良い部分しか使われないし、市場に出回らないですよね。墓石の場合、特に日本の石ではそれほど大量に採れずに、そのなかで色合いを合わせるのはかなり苦労されることと思いますし、それはそれですごいことと思っています。

でも、彫刻家は石の個性、石の表情・景色を生かしてあげないといけません。一般の方も均一な石ばかりを見ていると、それが石だと思ってしまう。だから、石は地球そのものであり、同じ石でもさまざまな表情を持っているということを、僕らが見せないといけないと思います。スジが入っていると「グレードが下がる」という評価になってしまいますが、逆にそれを生かし、価値を上げていかないと。


彫刻家・樂雅臣作品「輪廻 地層」。赤トラバーチンの1つの原石からつくった作品で、赤色から白色まで6色(6層)の表情を生かし、石本来の美しさ、魅力を伝える(写真:樂雅臣)

彫刻家・樂雅臣作品「輪廻 熾」ジンバブエブラック(写真:樂雅臣)

 

――とても大切なことですね。石の美しさ、魅力をどのように感じていますか?
 石は冷たいと思われますが、石はあたたかさを持っています。氷のように冷たくてもあたたかいものだと思っています。

製品になると、それを石の目の均一さや研磨の状態などに合わせてしまうので、それが基準になってしまうと思いますが、古い石造物を見ると、角が取れて砕けたり、スジも入っていますけど、それが「美しい」といわれます。

僕の場合なら、彫刻作品として展示することで、当然それは樂雅臣という人間がつくったものですが、その石から地球、自然というものを知らず知らずのうちに感じ取っていただける。それが魅力だと思いますし、そういう作品をつくりたいと思っています。


彫刻家・樂雅臣
彫刻家・樂雅臣佐川美術館 樂吉左衞門館は樂氏の実父・十五代吉左衞門(直入)氏が設計の創案をし、展示空間の他、2つの茶室(広間・小間)、水露地などを設ける。上は広間「俯仰軒」で、その外縁には割肌のジンバブエブラックの巨石を敷く。石の加工は樂氏(制作協力:髙木嗣人氏、関ヶ原石材)で、水露地の石組(左)や蹲い、水庭内の通路なども手がけた。石はいずれもジンバブエブラック(写真撮影:畠山崇 / 提供:佐川美術館
*佐川美術館:https://www.sagawa-artmuseum.or.jp/
*いしずえ:彫刻家  樂雅臣「石と空間の美」もご覧ください
https://stone-c.net/log/4781