いしずえ

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須田郡司~聖なる石への旅「パイ・マテウスの奇岩」(ブラジル、パライバ州)

2020.11.12

その他

写真1


 南米ブラジルのパライバ州に「パイ・マテウス」と呼ばれる奇岩が点在する岩山がある(写真1)。

 この場所を知ったのは今から7年ほど前で、大学時代の恩師から届いた1枚の写真がきっかけだった。恩師は、沖縄の移民研究の調査で何度もブラジルを訪ねていて、ある地元新聞の中に折り込まれていた奇岩の写真を送ってくださったのだ。この奇岩の名称、パイ・マテウスをグーグルアースで検索すると、それはブラジル北東部のカンピナ・グランデの近郊、カバセイラスの町の近くにあることがわかった。

 リオ・デ・ジャネイロから3時間のフライトで、ブラジル北東部のペルナンブーコ州の州都レシフェに到着する。海岸近くのホステルに宿泊し、翌日、バスでレシフェから100キロほど離れているカンピナ・グランデへ向かった。

 そのまた翌日、カンピナ・グランデを早朝六時に出発したバスは、午前8時にカバセイラスの町に到着。町の小さな博物館に入ると、奇岩の写真パネルが展示してあった。そこに書かれた「CABACEIRAS」の文字(写真2)。ここカバセイラスの人々にとってこの奇岩群は景勝地であり、特別な場所として人気のスポットのようだ。職員のひとに話を聞くと、パイ・マテウスとは「石のヘルメット」の意味があるという(写真3)。長い年月の中で岩が風化と浸食を重ねてヘルメット状になった奇岩群、それがパイ・マテウスである。

写真2

写真3 公園内で最もヘルメット状に浸食されている奇岩


 カバセイラスからパイ・マテウスまではトラックタクシーをチャーターする。約25キロの道程を、トラックは滑るように荒野を走る。しばらくすると遠くに奇岩の岩山が見えてきた。パイ・マテウスは公園になっていて、“Hotel Fazeda Pai Mateus”が管理していた。入園の手続きを済ませると、ひとりの男性ガイドが案内をしてくれた。

 ホテルから車で15分ほど行くと、公園の入口に到着した。車を降りて、トレッキングをしながら公園を進む。巨大な岩盤にいくつもの奇岩が見え、何とも不思議な光景だ。幅5メートル近くある石の上には、サボテンが生えていた(写真4)。その背後に水がたまっている。どうも、これは人工的に作った池のようだ。水量は少ないが、5月、6月には一杯になるという。

 我々は池の縁を歩きながら、岩盤へと上っていった。しだいに、丸みを帯びた石がごろごろと点在し始める。奇岩の数々に圧倒されながら歩く。

写真4


 やがてガイドは、ある洞窟状の奇岩の前に立ち止まり、説明を始めた(写真5)。ここは、いまから数百年前に生活していたカリリ族と呼ばれるインディアンの祭祀に使われた洞窟だという。洞窟内の岩には、いくつもの手や動物が描かれていて、洞窟内のテーブルでシャーマンが儀式をおこなったという(写真6、7)。

写真5

写真6

写真7 天井には数個の赤い手形を見ることができる


 洞窟から外を眺めると、丸い奇岩ともうひとつ別なテーブル状の石があり、遠くの岩山も奇岩だらけである(写真8)。隣の岩の中に入ると天井が丸みを帯びて浸食していて、まるで巨大なヘルメットの中にいるようだ。辺りを見渡すと、他にもヘルメットになろうとしている奇岩があった。気が遠くなるような悠久の年月を経て、これからヘルメット岩になって行くのだろう。

写真8


 さらに奥に進むと、幅約10メートル、高さ約3メートルものドルメンのような奇岩が現れた。岩と岩の隙間を覗くと、下の石は敷き詰められて、台座のように配置されているようにも見えた(写真9)。

写真9


 ガイドが最後に案内してくれたのは、奇岩庭園といってもいいような面白い場所だった。水辺の背後には、まるで巨人が積み重ねて作ったような高さ20メートル以上もの重ね岩(写真10)。自然の風化でできたのか、人の手による造形なのかはわからない。ただ、奇岩は明らかに圧倒的な存在感を放っていた。
 神秘なる風景が広がるパイ・マテウスは、奇岩の聖地そのものだった。

写真10


※『月刊石材』2015年8月号より転載

 


◎All photos: (c) Gunji Suda

◎ 須田 郡司プロフィール
1962年、群馬県生まれ。島根県出雲市在住。巨石ハンター・フォトグラファー。日本国内や世界50カ国以上を訪ね、聖なる石や巨石を撮影。「石の語りべ」として全国を廻り、その魅力を伝えている。写真集『日本の巨石~イワクラの世界』(星雲社)、『日本石巡礼』、『世界石巡礼』(ともに日本経済新聞出版社)、『日本の聖なる石を訪ねて』(祥伝社)など。

◎須田郡司ツイッター
https://twitter.com/voiceofstone