いしずえ
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彫刻家 絹谷幸太 創知彫刻―石と遊び、石に学ぶ。
創知彫刻
石と遊び、石に学ぶ。
彫刻家 絹谷幸太
*絹谷幸太氏のインタビューはこちら
「私は常々、作品には触れてほしいと思っています。特に子どもたちにはよじ登ったり、抱きついたりして遊んでほしい。石は教科書だから、石のことを知れば、宇宙の話までできるようになります。私の彫刻で無心になって遊ぶなかで、私が石から学んだことを感じ取っていただきたいと考えています」
彫刻家・絹谷幸太氏はそう話します。幼少期を過ごしたローマやヴェネツィアでは、噴水広場にある大理石彫刻によじ登って遊ぶのが日課で、その際に自身の彫刻家としての重要なテーマ「創知(そうち)彫刻」(五感のすべてを使って素材と対話ができる彫刻)のベースとなる「雲根過影」(うんこんかえい/大地の石は宇宙の霊気を宿し、石と雲とが有機的につながり合うという東洋哲学)の思想・感覚が、無意識にも心に刻み込まれたといいます。
作品『ブラジル日本移民百周年記念モニュメント』
2008年、ブラジル・サンパウロ市カルモ公園
6つの稲田石(茨城県産)と中心に据えた赤色花崗岩レッド・ドラゴン(ブラジル・セアラ州産)からなるモニュメント作品。サンパウロ市のカルモ公園内に設置し、子どもたちがそれぞれの石によじ登るなど遊具としても親しまれ、両国の友好の歴史を未来へと伝える
上の写真(3点)は、絹谷氏が制作設置した作品『ブラジル日本移民百周年記念モニュメント』(ブラジル・サンパウロ市カルモ公園、2008年)です。周囲に白い「稲田石」(茨城県産)を6つ配し、その中心にブラジル・セアラ州産の赤色花崗岩「レッド・ドラゴン」を据えています。絹谷氏は移民の方々の苦労に思いを重ね、敬意を払いながら、この日本の国旗をイメージさせる大作を制作しました。
「石の核心に向き合うとき、私の心が石に彫刻される」
表層的な表現やカタチの面白さは追わず、地質学者とディスカッションしながら、その石が発する無言のメッセージに耳を傾けて石を彫る絹谷氏。伝えたいのは、その石が宿す地球、そして人類の壮大な太古の記憶なのかも知れません。
作品『マグマの合掌』
2015年、名古屋大学博物館
こちらも赤色花崗岩レッド・ドラゴンと稲田石(台座)による作品。黒い筋(緑泥石)は約2億年前の〈断層の化石〉で、分断したものをつなぎ合わせている自然界の大きな力を造形化する。子どもたちが自身の彫刻作品に触れて遊ぶなかで、そのメッセージを感じ取ってほしいと絹谷氏は願う。左手前の人物は地質学者の足立守氏(名古屋大学特任教授)
写真:絹谷幸太
「月刊石材」2021年3月号より転載
◇絹谷幸太公式ウェブサイト
https://kotakinutani.com