いしずえ

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宮城県丸森町に「GALLERY LOCI」がオープン!~ 大蔵山スタジオ株式会社

2021.08.11

建築・造園・石垣

 大蔵山スタジオ株式会社(宮城県丸森町、山田能資社長)の「GALLERY LOCI ―― ギャラリーロキ」がオープンした。 同社が採掘する伊達冠石の採石場と、伊達冠石を大地の神に捧げた施設を中心とした、約50万平方メートルの広大な里山全体を創造と展示の舞台とし、採石場の持つ場の力や原石の力を通じて、人類が自然に対して抱いてきた原初の感覚をアーティストやクリエイターと追求し、企画展を不定期で開催するギャラリー(完全予約制)である。

伊達冠石の採石場や山堂(画像右端)など、
約500,000平方メートルの広大な山里全体が「GALLERY LOCI」の舞台となる


 ギャラリー名の「LOCI」は、事物に付随する守護神という意味の「Genius ゲニウス」と、場所・土地という意味の「Loci ロキ」のふたつのラテン語からなる「Genius Loci ゲニウスロキ」に由来し命名。土地の精霊、地霊と訳されるこの言葉は、物理的側面だけではなく、文化的・歴史的・社会的な土地の可能性を示すという。 

 そしてこのたび、第1回目となる企画展「KOSMOS」を6月4日から6日までの3日間、新型コロナの感染拡大予防対策をしたうえで開催された。今回は、花道みささぎ流家元の片桐功敦氏が、大蔵山に自生する草木を伊達冠石製の花器に生ける企画で、展示は大蔵山内にある山堂で行なわれた。

 山田社長はこう話す。

山田社長


 「第1回目として、焼物の展示などいろいろな企画を考えましたが、スタートですので、採石している大地に感謝の気持ちを込めて、大蔵山に自生している草木を石の花器に生け、その気持ちを表現する内容にしました」

 草木を生けた花器の数々は、山堂内に立つ約4メートルの伊達冠石を囲むように置かれ、内部はさながら森のなかにいるような雰囲気。石と草木のマッチングは、自然素材ならではの柔らかい空間をつくり出し、見るものをリラックスさせていた。

草木を生けた花器の数々は、山堂内に立つ約4mの伊達冠石を囲むように置かれた


 「花器として石を使うことはよくありますが、伊達冠石は独特というか、風合いや表情が素晴らしいので、花器には最高の石でしたね。今回生けた草木は十種類ほどで、姿のいい樹木、花の季節は終わったけど花が少し残っているもの、花が終わって実を付けているものなどを選びました。大蔵山は非常に植生の豊かな森であり、植物は石が誕生した大地、石の表層部分が育んでいます。ですから、今回はその命を少しいただいただけでも、山の空気感ができあがることを体感してもらいたいと思いました」

 片桐さんはそう話す。「石を産出する場所に来て、そこの石を花器に使用し、かつそこで育っている植物だけで展覧会を構成するというのは初めて」ともいい、花器に使う石選びから山田社長と一緒に行なった。

片桐さん


山堂2階に展示された大蔵山の草木を生けた花器の数々


 山田社長と片桐さんの出会いは六年ほど前のこと。片桐さんが2013年から約1年、福島県立博物館が主体のアート・プロジェクト「はま・なか・あいづ文化連携プロジェクト」に参加していたことがきっかけだ。片桐さんは、大蔵山のある丸森町の隣町となる、東日本大震災では津波被害に加え、原発事故の影響も多大にあった福島県南相馬市内のさまざまな場所で、花を生けては撮影をしていた。

 「当時の南相馬市は、津波や原発事故の影響により、人が住めなくなったことで自然が戻ってきている不思議な場所でした。人間文明の成れの果てのような場所であり、原発事故は人間が自然に対する敬意を失ったことで起きた事故だと痛切に感じました」

 震災前に準絶滅危惧種だった「ミズアオイ」が、津波によって沿岸部が潟に戻ったことで再生し、プロジェクトから片桐さんに「生けてみる気はないか」と声が掛かったという。片桐さんは大阪出身だが、プロジェクトの途中から南相馬市内にアパートを借りて生活をしていたそうだ。

大蔵山の草木を見て歩く片桐さん


 「プロジェクトの終わりくらいに、大蔵山に来させていただいて、すごく感銘を受けたんです。ここで働く人たちは、自分たちが自然から糧を得て、そのお返しとして自分たちの感謝の念をさまざまなかたちで自然に戻している。とても嬉しく思って、安心もしましたね」

 南相馬市で、人類の文明についてジレンマを感じていた片桐さん。山田社長をはじめ、大蔵山で働く人たちが、自然のなかで生活をする人間のあるべき姿に見えたのだ。

 ただ、大蔵山も山田社長の祖父の時代、高度経済成長の時代は、石を東京や関西方面へ出荷するために山を乱開発し、1970年代後半には山が荒廃していたという。それを山田社長の父が「山に命を返す」として、さまざま取り組んだ結果、現在に至っているのである。

伊達冠石採石場の一番奥にある「現代イワクラ」と(左)、
伊達冠石の原石置き場の一部。彫刻公園のようだ


 「片桐さんから『大蔵山は腐葉土が多い。落ち葉が大地を豊かにしている』という話を聞きました。大蔵山では、食を通して山のことを考える食堂のような施設もつくりたいと思っていますので、腐葉土によって自生している植物も食していただきたいですね。また、大蔵山の土は赤土で、鉄分が多く含まれているということなので、土を生かした焼物や染物を研究する工房もつくりたいと思っています。石だけではなく、さまざまな素材を通して、大蔵山の理解を深めてもらえるような取り組みを、山に感謝しながらしていきたいです」

 山田社長はそう話し、すでに次の展開を構想している。

 石を採掘するだけではなく、自然と共生しながら事業を展開する大蔵山スタジオ。最近の言葉でいえば、「持続可能な社会」を目指す企業といえるであろう。伊達冠石を使った海外向けの製品の出荷も増えている状況で、今後の展開はますます注目だ。

左から、第4回大蔵山ワークキャンプ(2015年)で完成した石のモニュメント「DEBESIS」(一番上のシンボルストーンだけで約3トンの重量がある)、大蔵山スタジオの事務所、海外に出荷するテーブルの台石。内部をくり抜き使用する


 なお、「GALLERY LOCI ―― ギャラリーロキ」は、イベント期間のみの公開。開催日以外は入場できないので、イベントをご確認のうえ、ご来場いただきたい。


◎大蔵山スタジオ㈱
宮城県伊具郡丸森町大張大蔵字小倉10-1
https://okurayamastudio.co.jp/


※『月刊石材』2021年7月号を一部再編集して転載