いしずえ

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松江藩の御止石「来待石」、まだまだあります!!

2022.09.25

その他


  

 勝部社長は「出雲石灯ろう」のよさをこう話す。

 「来待石の色合いと肌の具合は、私は日本一だと思っています。庭に置いた瞬間から空間に馴染み、苔が付くのも早いです。時代を重ねた古びた感じの出るスピードが速く、わびさびの世界にマッチします。また来待石は、旋盤でバリバリ削って加工できます。花崗岩の春日灯籠を1基つくる間に、来待石であれば10基ぐらいはつくれると思いますので、大量生産も可能です」

旋盤を使って、出雲石灯ろう(春日)の笠石を加工する(株式会社勝部石材店にて)

 もちろん勝部社長は、来待石製品が「出雲石灯ろう」だけに頼ればよいとは思っていない。「来待石を復活させよう」と、地元の石材業者の有志と地域おこし隊による来待石産業振興プロジェクト実行委員会が平成29(2019)年に発足した際には、来待石の新たなマーケットをつくるために、勝部社長もそのメンバーに加わった。

 同実行委員会は、工業デザイナーの松本正毅氏を招いてオリジナル商品の開発に着手し、令和2(2020)年には「いしほたる」と名付けられた現代の石灯籠を商品化した。来待石の伝統の技を活かしつつ、現代の住まいに優しい灯りを照らすと評判の新商品である。

来待石産業振興プロジェクト実行委員会が2019年に工業デザイナーの松本正毅氏と共同開発した来待石製のオリジナル灯り「いしほたる」


 「来待石は子どものころから見ている石ですので、何とかして後世に残していきたいと思っています。需要は潜在しているだけで、『出雲石灯ろうは知っているけれども、来待石は知らない』という方は、日本はもちろん、世界を考えればたくさんいると思います。ですから、潜在需要をどうやって掘り起こしていくかがカギだと思っています」(勝部社長)

 「来待石の復活」には、公共工事における来待石の使用も重要なポイントで、前述したとおり、来待石灯ろう(協)では、来待石の建材としての使用を各所に提案している。最近では、宍道湖と中海をつなぐ川の拡幅工事の際、川べりの遊歩道で来待石が使われ、島根県産の石として溶岩質の島石も同じく使われた。この拡幅工事は10年計画であり、今後も来待石や島石の使用が見込まれている。

宍道湖と中海をつなぐ川の拡幅工事の際、川べりの遊歩道(敷石・階段石)で来待石が使われた(石垣は島根県産の島石)。上記は松江地方合同庁舎前の遊歩道

「千本ダム(国の登録有形文化財)の調査のときに、岩体はあっても石材としては消えてしまうことがあるんだと思いました。文化財などを修復する際、既存の石ではなく、他の石を使わざるを得ない状況は本当に寂しいですね。採掘は一度止めてしまうと復活はたいへんです。来待石もそうならないように、少量でも採り続けていかなければならないと思っています」(古川さん)

 千本ダムは松江市にあり、いまから百年以上前の大正7(1918)年に竣工した石積み堰堤で、令和元(2019)年から令和3(2021)年にかけて、堤体耐震化改修工事が行なわれた。この工事ではダムの天端にあたる越流部の復元工事も行なわれ、最初は既存の地元松江市産「忌部みかげ」の使用が検討されたが、復元全量をまかなえないことから、同みかげに似た他の石が使用されたのだ(『月刊石材』2020年4月号参照)。

「来待石の丁場で仕事をしたい人はいますが、問題は今後、食べていけるだけの量が動くかどうか? 現在は公共工事の需要が多少見込めるから石の切り出しを続けていますが、一般需要がないと、やはり採算は合いません。灯ろう需要の復活はなかなか難しいだろうから、一般需要としては今後、ちょっとしたオブジェやアクセントになる景石、また小物などで動いていくのではないかと思っています」(美喜男さん)


来待石製のたぬき(来待ストーンにて)来待石製のたぬき(来待ストーンにて)


 美喜男さんは、多いときには4、5人態勢で採石をしていたが、需要の減少に伴い、徐々にその人数を減らし、5、6年前からは「これだけ動かなかったら仕方がない」と、1人で採石を継続していた。現在は、数年前の公共工事に伴う需要から3人態勢まで戻しているが、楽観視はできない状況だ。来待石の原石出荷は、2、3トンの大きさが主流で、現在は注文に応じて採石し、小割材も出荷している。40トンクラスの大材も出荷可能であり、埋蔵量は美喜男さんの冒頭の言葉のとおり充分ある。

 美喜男さんは現在、来待石を山で10センチほどに厚み切りをして、庭師が2人で扱えるくらいの大きさの造園向け商品の開発にも取り組んでいる。1メートル×2メートルくらいのサイズから、乱貼りできるような小さなサイズも用意し、「敷石をはじめ、庭師さんの感性でいろいろな場所で使ってもらいたい」といい、自ら来待石の市場を開拓していく姿勢だ。

 かつては生活用具の一部として欠かせない素材だった来待石。現代の生活でも、時代のニーズに合わせた使い方はあるはずである。「熱しにくく冷めにくい石」という特性から、ヒートアイランド現象の問題解決につながる素材になるはず、という声もある。

 来待石は、平成28(2016)年には、島根県の石として日本地質学会から認定されている。加工が容易なことから、さまざまな人が扱える利点もあり、その色目から海外で人気を博す可能性もある。「来待石の復活」に向けて、皆でその使い方を考えていきたい。


株式会社勝部石材店
島根県松江市玉湯町湯町1540番1

モニュメントミュージアム・来待ストーン
島根県松江市宍道町東来待1574-1

◎来待石灯ろう協同組合
島根県松江市宍道町東来待1644-1